昨年の東京国際映画祭で上映されて話題を呼び、このあいだの韓国のプチョン映画祭でも前売り完売の大人気だった作品がようやく、一般公開に。関西の中では京都が一番早く、大阪での公開は9月。というわけで、早速見に行ってきました。前半の設定に関わる部分を説明しています。
銭湯の床を掃除するモップを手に、暗い目をして立つ男。その背後に倒れた死体とピストルを手に呆然と佇む金髪の男。そんなポスターからは何か不穏な雰囲気が漂う。
昔ながらの銭湯「松の湯」。表向きは普通の銭湯だが、閉店後はヤクザの殺人の場に。洗い場に流れた血は簡単に洗い流せるし、死体はボイラーで跡形もなく処理。ヤクザに借金があり、弱みを握られているオーナーはそんな裏稼業を受け入れざるを得なかった。
東大出で定職なしの和彦は、この松の湯で高校時代の同級生の百合と出会ったことをきっかけに、ここでアルバイトとして働き始める。そして、偶然に深夜の裏稼業を目撃してしまい、共犯者として手伝うことになる。しかし、特別手当をもらえば高揚感を覚え、百合とのデートにも出かけ、和彦の生活はある意味、今までになかった生の躍動感を帯び始める。
和彦の同僚の松本は、金髪でヤンキー風の風貌ながら、松の湯のオーナーの信頼が厚く、和彦の胸の内はざわつく。やがて事態は抜き差しならない方向に向かっていく・・・。
予想されるような血みどろホラーでもクライムサスペンスでもなく、じゃあ、なんだろう?まあ、見てのお楽しみ。血を見るのが嫌いな人でも大丈夫。
夜な夜な銭湯が殺人現場になるという陰惨きわまる設定ながら、どこかのほほんとした雰囲気の漂う和彦。話が進むにつれて、風貌も印象も変わってくる松本。そしてそんな世界とは無縁のように地に足のついた日常を生きる和彦の両親。
話の展開はどちらかというとゆっくりだが、見終わってみれば、話の運びを緻密に組みたてるシナリオのうまさを感じる。和彦と百合、和彦と松本、そして和彦の家族など、何気ないように見える会話がとても面白い。何一つ洒落たことは言っていないのに、こういう会話の出てくる映画ってなかったなあと感心する。
私は立場的には和彦の母に近いせいか、脇役である母のセリフも面白く感じた。たとえば、「あら、お風呂まだだったの。やだ、お湯落としちゃったけど、またお湯はるからはいりなさいよ。何言ってるの、やっぱりお湯に浸かった方が疲れの取れ方が違うから、ね、入りなさい」。 30にもなった息子にこんなこと言うか、と思うかもしれないが、母親とは子どもがいくつになってもこういうことを言う生き物だ(私は50になっても言われていた)。そして、客観的に見るとかなりウザい。ほっといてくれと思う。でも、和彦は母に言われて、しぶしぶながら、銭湯に行く。それが全ての始まりになるのだ。
また、食卓を囲んで「あー、ジョブハンティング(だったかな?なんかそんな職探しに関する単語)には、あれが一番いいって聞いたわよ。あれ?なんだっけ、ど忘れしちゃった。言おうと思ったのに。えーと。また、思い出したら言うね」というセリフ。この母親は、息子が無職なのを心配しているが、具体的にどうしろという指図はしない。この会話でも肝心の情報の部分は記憶から脱落している。しかし、そういうことを気にしているというサインをさりげなく送っている。そして深追いはしない。この絶妙な感覚が、この家族の雰囲気を実によく表している。
低予算で作られたという点で、「カメラを止めるな!」に比されたりするが、あのような爆発的なヒットにはならないだろう。けれど、映画好きの人たちをクスリと笑わせ、そして唸らせる力はある。和彦、松本を演じた二人は制作にも関わっていて、映画の中の役とは異なる個性ある人たちのようだ。まあ、いろんな意味で面白かったです。
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