多くの美術館に65歳からのシニア割引があるが、ここ松濤美術館は60歳以上が対象で、しかも半額!つまり夫と一緒に行って一人分の料金で済むのだ。そして、ここの展示は時々ハッと驚くような企画をしてくれる。記憶に新しいところでは、
廃墟展か。私にとっての一番は
三沢厚彦の謎の館。あれは面白かった。
なので、今回もまた期待をして行ったが、実はちょっと残念だった。
まずは、本展の概要から。
https://shoto-museum.jp/exhibitions/182ukiyoe/
江戸時代に生きた女性の「くらし」の様相を、描かれたもの、記録されたものから考えます。現代と異なる身分制社会の中で、公家・武家・農民・町人・商人・遊女など多様な階層の女性たちが何を身にまとい、働き、学び、楽しみ、どのように家族をつくったのか。女性のくらしが描かれた美人画や春画、着物や化粧道具などから、その様子をみていきます。
※18 歳未満の方(高校生を含む)がご覧になれない作品が一部含まれます。
構成は
序章〜始めに
第1章 階層〜身分とくらし
第2章 芸事〜たしなむ
第3章 観られる女〜愛でる
第4章 着物〜まとう
第5章 化粧〜よそおう
第6章 娯楽〜あそぶ
第7章 労働〜はたらく
第8章 結婚・出産・子育て〜家族をつくる
第9章 教育〜まなぶ
第10章 色恋〜たのしむ
webでは探せなかったが、会場「ごあいさつ」に本展開催の経緯が記してあった。そこには、この企画に際して春画研究の石上阿希氏に相談したところ、春画展は複数の美術館ですでに開催されているから、松濤は松濤らしい企画にしましょう、ということになり、江戸時代の様々な階級の女たちを、着物、化粧、娯楽、芸事、仕事、家族などの様々な面から見ていく展覧会を開催することになった、と書かれていた。
う〜ん、着目点は確かに面白いが、その割には展示物があまり魅力的でなかった。会期中展示替えがあるというが、2階展示室壁面はスカスカで数が少ないという印象。作品保護のため入れ替えは仕方がないにしても、もう少し点数を増やせないものか。もう少し有名どころの作品をどーんと出せなかったものか。
例えば、第3章観られる女。
寛文年間に流行した立ち姿美人(遊女、芸者などのプロ)の掛け軸と、その後浮世絵版画の流行とともに出回った看板娘(店の看板娘は、いわばアマ)のプロマイド版画は1点ずつではなく、もっとたくさん観たかった。
懐月堂安度《黒地歌留多散らし衣装の遊女》
北尾重政《柳屋お藤》
絵画よりむしろ面白かったのが、お歯黒道具(伊勢半本店紅ミュージアム蔵)や結髪雛形模型(国立歴史民俗博物館蔵)など。鏡台(伊勢半本店紅ミュージアム蔵)は、立てかけた鏡が上部に収納できる、開いたまま化粧するのに便利なように引き出しは正面でなく側面についているなどの工夫がされていて、なるほどであった。
去状之事という離縁状(慶應義塾大学文学部古文書室)は、実物を見たのは初めて。たっぷり堂々とした墨跡で、本当に三行半(みくだりはん)で書いてあるのねぇ。字の小さい人は2行くらいで収まりそう(笑)
《名物鹿子》という書には、「覚悟して来ておそろしき水の月」という川柳とともに「中条流」の看板を掲げた家屋を不安げに覗き込む女性の姿が描かれていた。「中条流」とは堕胎専門の闇医者。これは恐い絵だ。
楽しいのもあった。歌川豊国《江戸名所百人美女 尾張町》
美人が楽しそうに着物を選んでいる錦絵。女性はいつの時代もファッションとメイク、そしてアイドル(当時は歌舞伎役者)に夢中
写真可のパネルになっていた渓斎英泉《新板娘庭訓出世双六》
生娘、花嫁、妾、お乳母どん、お針、瞽女、お中老…女性の地位や職業が双六になっていて面白い。
さて、2階展示室奥の部屋が春画コーナーになっていたが、こちらは18禁。なかなかの充実で面白かった。ひょっとしたら、松濤は春画展を開催したかったのではないか、しかし、何らかの圧力で(区立美術館だしね)春画に特化できなかったのではないか…などと、先の「ごあいさつ」での経緯説明を思い出し、勝手に妄想してしまった。
以下ちょっとご紹介、閲覧注意です。
上手いなぁ、と思ったのは喜多川歌麿《ねがひの糸ぐち(鏡台)》
鏡に映った女性の足の指が、エクスタシー
美しかったのは杉村治兵衛《欠題組物(若衆と遊女)》カラー摺の浮世絵が出回る前の墨摺。いつの時代もモノクロームは想像力を掻き立てる
河鍋暁斎《はなごよみ》は誇張がすぎて笑える。
司馬江漢《艶道増かがみ》はお年寄りの情事。気持ちはあれど体がついていかない。
歌川豊国《正写相生源氏》
柏木が御簾ごしに女三宮の股間に手を入れる。猫が手前で交尾中。これは言わずと知れた、源氏物語で猫が逃げて女三宮が柏木に見られてしまう、不倫始まりの名場面のパロディ。
パロディなら、女性の修身書《女大学宝箱》を丸ごとそっちにパロディった《女大楽宝開》を並べて展示。タイトルからして大笑いだが、肝心の中身が小さい上に会場が暗くてよくわからなかった。
子供を抱きながら、とか、複数相手に、とか、ニコニコ顔で、とか、他にも大笑いするような絵がたくさんで、江戸時代は性に対してかなりおおっぴらだったことがわかる。もちろん、現実には、遊郭や家庭内でも女性の性はひどく虐げられてきた訳で、そうそう笑ってはいられない。とはいえ、それを踏まえてもなお男女が平等に娯しんでいる絵が広まったならば、それならこれは一文化として展覧する意義はあるように感じた。
松濤美術館さん、松濤ならではの春画展も観たかったです。
5月26日まで。
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