題名:人口減少社会の未来学
編者:内田 樹(うちだ・たつる)
出版:祥伝社新書
価格:1600円+税(2018年4月 第1刷)
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内田樹さんが編者を務めた論集です。
マイミクさんの紹介で読みました。
目次を紹介します。
(→が私の加えた概要です)
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序論 文明史的スケールの問題を前にした未来予測 内田 樹
→「最悪の事態」という日本人が苦手なことを考えなければいけない
ホモ・サピエンス史から考える人口動態と種の生存戦略 池田 清彦
→人口減とAI化が重なる近未来の社会制度について
頭脳資本主義の到来 ――AI時代における少子化よりも深刻な問題 井上智洋
→「頭脳」に価値を置かなくなっている日本社会への警鐘
日本の"人口減少"の実相と、その先の希望 ――シンプルな統計数字により、「空気」の支配を脱する 藻谷 浩介
→「若者の東京一極集中の加速」という誤った認識の指摘とその対応
人口減少がもたらすモラル大転換の時代 平川 克美
→ヨーロッパで進んでいる婚外子を認める社会にすべきという提言
縮小社会は楽しくなんかない ブレイディみかこ
→22年前からイギリスに住んでいる筆者から、縮小社会の現状についてのルポ
武士よさらば ――あったかくてぐちゃぐちゃに、街をイジル 隈 研吾
→現代の建築業を、江戸時代の武士階級になぞらえた、ユニークな社会改造論
若い女性に好まれない自治体は滅びる ――「文化による社会包摂」のすすめ 平田 オリザ
→出生率を劇的に高めた岡山県奈義町を例にした、地域(自治体)再生プランの提示
都市と地方をかきまぜ、「関係人口」を創出する 高橋 博之
→岩手県県議会議員を経て、現在は東北を中心に活動している筆者からの都市と地方の交流の在り方論
少子化をめぐる世論の背景にある「経営者目線」 小田嶋 隆
→未来予測の不確実さと、人口減少を言い立てる「経営者」たちへの反論
「斜陽の日本」の賢い安全保障のビジョン 姜 尚中
→人口減少で小国になる日本の安全保障について
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内容は実に多彩で、それぞれを引用してゆくと長大になるので、代表して、以下の三氏の文章を引用します。
1.
【序論 文明史的スケールの問題を前にした未来予測】[内田樹]から、日本人の特性についての指摘を2つ。
“もう一度言いますけれど、僕たち日本人は最悪の場合に備えて準備しておくということが嫌いなのです。
「嫌い」なのか、「できない」のか知りませんが、これはある種の国民的な「病」だと思います”(16p)
“先の戦争指導部と共通のマインド:
「これがうまく行って、これもうまく行けば、皇軍大勝利」という「最良の事態」ばかりを次々とプレゼンできる参謀たちがそこでは重用されました。(略)
作戦が成功すれば立案者の功績、失敗すれば実行部隊の責任”(21p)
2.
【人口減少がもたらすモラル大転換の時代】[平川克美]から、日本と韓国で少子化対策がうまく行っていない理由。
“少子化をめぐる状況を、改善のすすまない日本や韓国と、ある程度歯止めがかかったヨーロッパとの比較で見ていると、顕著な相違に気付く。その相違とは、婚外子率である。
フランスもスウェーデンも婚外子率が5割を超えている。(略)
これに対して、日本の婚外子率は、1桁以上少なく、わずかに2.3%でしかない。韓国はさらに低く1.9%である”(143p)
3.
【武士よさらば ――あったかくてぐちゃぐちゃに、街をイジル】[隈 研吾]から、江戸時代の武士階級の思想が、今の建築業につながっているという考察。
“江戸時代における武士階級が、21世紀日本においては建設業であった。すなわち、どちらの集団も、かつては必要であったが、時代が変わって、突然不要のものとなった。”(180p)
“建設の(建設業を儲けさせる)ためのお題目は時代とともに変わった。70年代以前には、経済成長、住宅供給がお題目とされた。
90年代以降は福祉であり、環境であり、安全、安心である。それぞれの時代に合った耳障りのいいお題目が選ばれるが、この集票システムの存続自体が目的なのであるから、お題目は、ある意味、何でもいいのである”(184p)
さまざまな視点からの問題点が指摘され、著者なりの対策を提示している論考もあります。
これらの論考が、現状を改善し、未来の世代へツケを回すことをやめるきっかけになって欲しいと思いました。
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内田 樹(うちだ・たつる)
1950年、東京都生まれ。思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授、凱風館館長。
東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学科博士課程中退。
専門はフランス現代思想、武道論、教育論など。
『ためらいの倫理学』『レヴィナスと愛の現象学』『ローカリズム宣言』など著書多数。
『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)で小林秀雄賞、『日本辺境論』で新書大賞を受賞
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