題名：こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち
著者：渡辺 一史（わたなべ・かずふみ）
出版：文春文庫
価格：880円＋税（2018年10月 第3刷）
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講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞をダブル受賞したノンフィクションです。
友人に勧められて、手に取りました。
裏表紙の惹句を引用します。
“ボランティアの現場、そこは「戦場」だった――筋ジストロフィーの鹿野靖明さんと、彼を支える学生や主婦らボランティアの日常を描いた本作には、現代の若者の悩みと介護・福祉をめぐる今日的問題のすべてが凝縮されている。
講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞をダブル受賞した名著”
主役は筋ジストロフィーに罹った鹿野靖明さんと彼のボランティアたち。
著者の渡辺さんも、取材の傍ら、二年間ボランティアをしたそうです。
鹿野さんは筋ジストロフィーが進行し、動くのは両手の指がほんの少しだけという状態。
自分のお尻を自分で拭くことができない。寝ていても寝返りがうてない。
しかも、気管内に溜まる痰を吐き出すことができないので、吸引器で取らないと窒息してしまうという。外出はもちろん電動車イス。
しかし、そんな鹿野氏は、ナースやボランティアに大人しく従う優等生ではない。
「あれをしてくれ」「これをしてくれ」とワガママを言い、時には介護が下手なボランティアに暴言を吐く時もあったという。
そして、そんな優等生ではない障害者を慕うボランティアが多数いた（無論、反発して去ったボランティアもいたそうだ）理由を著者は本書で考えています。
目次を紹介します。
プロローグ 今夜もシカノは眠れない
第１章 ワガママなのも私の生き方 この家は確かに「戦場」だった
第２章 介助する学生たち ボランティアには何があるのか��
第３章 私の障害、私の利害 「自立生活」と「障害者運動」
第４章 鎖につながれた犬じゃない 呼吸器をつけた自立生活への挑戦
第５章 人工呼吸器はわれなり 筋ジス医療と人工呼吸療法の最前線
第６章 介助する女性たち ボランティアには何があるのか��
第７章 夜明け前の介助 人が人と生きることの喜びと悲しみ
エピローグ 燃え尽きたあとに残るもの
印象に残ったところを引用します。
→は私のコメントです。
【第１章 ワガママなのも私の生き方】より、「介助ノート」の一節。
“95/8/13(日) 鹿野より
ボランティアのビラをくばったり、なるべく多くの人に声をかけているが、介助は１回来てわかるものではない。
ボランティアが忙しくなって来れなくなると、なんで、と正直思ってしまう。
皆しょってる人生は違う。正直ボランティアなんてより、国がそもそも保障しない事にはらがたつ。
神様が僕に与えた試練は時に残酷に思う。時々早く死んだ方がもういいと思う。けれど、人間は不思議なもので、そういう時になると、必ずまだ死んでたまるかものかと思う”（26p）
→「介助ノート」とは、鹿野氏のボランティアや本人が連絡や感想を書くノートです。
【第２章 介助する学生たち】より、主役：鹿野氏のボランティア感。
“鹿野によると、ボランティアには、「憐れむ人」「励ます人」「障害者を子ども扱いする人」「してあげるオーラを発散する人」「軽く考えている人」
「深刻すぎる人」「病気のことはアナタより私の方が知っていると信じて疑わないナース」など、いろいろいるそうだ。
それまでの経験や「障害者観」「病人観」などから、出方は各人各様さまざまだということだろう”（121p）
【第２章 介助する学生たち】より、ボランティアの一人、片桐氏の言葉。
“「状況を難しくすることの一つに、障害者というのは『聖人君子』というか、ツライのに、ハンディがあるのに、一生懸命、崇高な目的に向かって歩んでいる人たちっていうイメージが多かれ少なかれありますよね。ぼくは障害者を忌み嫌うという差別とは別の、そういう美化や聖化も、立派な『障害者差別』だと思ってるんですけど”（149p）
→私自身も自分のこととして、思い当たります。
【第３章 私の障害、私の利害】より、「ノーマライゼーション」という言葉の真の意味。
“もともと「ノーマライゼーション」という言葉は、そうした障害者の「隔離・収容政策」に対する厳しい批判と反省の中から出てきた理念である。
《障害のある人たちに、障害のない人々と同じ生活条件をつくりだすこと。障害者をノーマルにするのではなく、障害者の "生活条件をノーマルに" すること――》”（197p）
【第４章 鎖につながれた犬じゃない】から、本書のタイトルになったエピソード。
“あるとき、真夜中に起こされた（ボランティアの）国吉は、鹿野に「バナナ食べる」といわれて、ひどく腹を立てたが、「国ちゃん、もう１本！」と鹿野に言われた瞬間、不思議と怒りがクールダウンして、「もうこの人の言うことは、なんでも聞いてやろう」と思うようになったというのだ”（310p）
【第６章 介助する女性たち】から、鹿野氏の不遜とも見える態度について。
“鹿野には、「お世話をかけて」「申し訳ない」という態度があまり感じられないということは前に書いたが、対介助者との関係において、まさにそうした態度（それが当然の権利なのだという態度）を獲得してゆくことが、鹿野にとっての自立への挑戦であり、日々の闘いでもある。
その背後には、つねに介助者に対して「ワガママ」がいえず、自分の気持ちや感情を抑え込んだまま、遠慮しながら生きざるをえない施設や病院にいる障害者たちの姿がある”（363p）
→“自分の気持ちや感情を抑え込んだまま、遠慮しながら生きざるをえない”の部分が心に刺さりました。
【第７章 夜明け前の介助】から、鹿野氏の悪癖（暴言）について。
“気心知れた人に暴言を吐くというのは、鹿野の場合、なにも彼女に限ったことではない。
高橋雅之に対しても、ときにひどいことを言うので、私もヒヤリとさせられることがある。
一種の甘えなのかもしれないし、信頼感や親愛の情の裏返しなのかもしれない”（446p）
最後に【解説】から山田太一さんの言葉を引用します。
“どうかこの「解説」を読んで、この本を読んだ気にならないでください。546頁の、どの頁をひらいても、読む人の心に届くなにかがきっとある本です”（558p）
仕事として、ふだん障碍者に接している私には、大変な課題を出されたように感じました。
なお、本書は大泉洋さん主演で映画化され、12月28日からロードショウされます。
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渡辺 一史（わたなべ・かずふみ）
1968年、名古屋市生まれ。中学・高校・浪人時代を大阪府豊中市で過ごし、1987年、北海道大学理�況脇�学と同時に札幌市に移り住む。
1991年、北大文学部行動科を中退後、北海道を拠点に活動するフリーライターとなる。
2003年刊『こんな夜更けにバナナかよ』で講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
2011年刊『北の無人駅から』で、サントリー学芸賞などを受賞。札幌市在住。
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