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2018年10月14日17:19

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物流は世界史をどう変えたのか[読書日記695]

題名:物流は世界史をどう変えたのか
著者:玉木 俊明(たまき・としあき)
出版:PHP新書
価格:860円+税(2018年1月 第1版第1刷)
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世界史を「物流」という視点から見直した本です。

本書の見返しにある惹句を引用します。
“国力を左右する主な要因は軍事力や工業力、あるいは人口だと考えられることが多い。
 だが多くの識者にとって盲点となっている重要なファクターが一つある。
 「物流」である。
 漢の武帝はヨーロッパに先駆けて、物流に国家が介入するシステムを構築して財政を
 安定させた。
 オランダはバルト海地方から輸入した穀物を、食糧不足であえいでいた欧州各地に
 運搬することで覇権国家となり、イギリスではクロムウェルが航海法を制定したこと
 がパクス・ブリタニカの要因となった。
 さらにフェニキア人の活躍から社会主義国家の決定的な弱点まで、経済史研究の
 俊英が平明に語る”

目次は次のとおりです。

 はじめに
 第一章  フェニキア人はなぜ地中海貿易で繁栄したのか
 第二章  なぜ、東アジアはヨーロッパに先駆けて経済発展したのか
 第三章  イスラーム王朝はいかにして国力を蓄積したのか
 第四章  ヴァイキングはなぜハンザ同盟に敗れたか
 第五章  なぜ中国は朝貢貿易により衰退したのか
 第六章  地中海はなぜ衰退し、バルト海・北海諸国が台頭したのか
 第七章  喜望峰ルートは、アジアと欧州の関係をどう変えたか
 第八章  東インド会社は何をおこなったのか
 第九章  オランダはなぜ世界で最初のヘゲモニー国家になれたのか
 第十章  パクス・ブリタニカはなぜ実現したのか
 第十一章 国家なき民は世界史をどう変えたのか1――アルメニア人
 第十二章 国家なき民は世界史をどう変えたのか2――セファルディム
 第十三章 イギリスの「茶の文化」はいかにしてつくられたのか
 第十四章 なぜイギリスで世界最初の工業化(産業革命)が生じたのか
 第十五章 アメリカの「海上フロンティア」とは
 第十六章 一九世紀、なぜ西欧とアジアの経済力に大差がついたのか
 第十七章 社会主義はなぜ衰退したのか
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印象に残った所を6つ引用しましょう。

1.
【第一章  フェニキア人はなぜ地中海貿易で繁栄したのか】から、ローマ帝国の繁栄にはローマが滅ぼしたカルタゴの物流ネットワークがあったという話。
“一般に、地中海世界はローマが築き上げたものだと考えられている。しかしそれは、ヨーロッパ人が、自分たちの過去を美化したかったためにつくった幻想だと私は思っている。(略)
 ローマの穀物輸入は(ヨーロッパ人ではない)カルタゴ人の地中海の物流ネットワークを受け継いだからこそ可能になったということは、決して忘れるべきではない。カルタゴがなければ、ローマは存在しなかったのだ”(32p)

2.
【第六章 地中海はなぜ衰退し、バルト海・北海諸国が台頭したのか】から、ローマ帝国が栄えた地中海で海運業(物流)が衰退した理由。
“しかも、(イタリアの発展には)生態的な限界があった。イタリアでは造船業のために森林が切り倒されていった。前述したように、地中海沿岸地域で森林を伐採すると、ふたたび森林地帯になることはほとんど考えられなかった。
 そのため造船業と海運業が衰退することになり、北ヨーロッパのように大規模な商船隊を有することは不可能になった”(86p)

3.
【第八章 東インド会社は何をおこなったのか】から、オランダとイギリスが「東インド会社」を作った理由。
“東インドはヨーロッパから遠すぎて、何か問題が生じたときにいちいち本国に問い合わせていては間に合わない。そこで、一種の国家のようなものをつくり、軍隊によって商業活動を保護し、交易を促進させようとしたのである”(105p)

4.
【第十章 パクス・ブリタニカはなぜ実現したのか】から、「パクス・ブリタニカ(イギリス帝国)」が軍事面だけから成立したのではないという話。
“パクス・ブリタニカと呼ばれる時代にイギリスは世界中に艦隊を送っただけではなく、商艦隊を送って「イギリス帝国」を維持したのだ。
 イギリスはたしかに、世界最大の海軍を有した。(略)
 しかし、イギリス帝国は、決して軍事力によってのみ拡大したわけではない。イギリスが世界最大の商船隊を有し、グローバル化が進む十九世紀に、世界中の品物を輸送したということこそ、われわれが関心を向けるべき重要な事実である”(131p)

5.
【第十五章 アメリカの「海上フロンティア」とは】から、アメリカ合衆国の独立にも海運の力が大きかったという話。
“アメリカ合衆国にとって幸運だったのは、独立してからすぐ、フランス革命・ナポレオン戦争(1789〜1815年)が生じたことである。
 アメリカ大陸には大量の海運資材があり、造船業の発展は容易であった。ヨーロッパ諸国がバルト海地方から海運資材を輸入していたこととは対照的である”(193p)

6.
【第十七章 社会主義はなぜ衰退したのか】から、衰退の大きな要因が流通経路の不備にあるという分析。
“社会主義諸国は、必要な消費財を消費者が入手するための流通経路を整備しようとはせず、それが人々の不満の原因となった。それが、社会主義崩壊の大きな要因となった”(218p)

また、「物流」という切り口ではありませんが、「物資」の視点から世界史を分析した例もいくつかあります。
2つ引用します。

1.
《朝貢品》について、【第五章 なぜ中国は朝貢貿易により衰退したのか】から。
“そもそも朝貢貿易というシステムは、いうまでもなく、中国が隣国よりも圧倒的に経済力があったからこそ成り立った制度であった。
 朝貢品よりも中国が下賜する品々の方がはるかに価値があったからこそ成立したのである”(76p)

2.
《塩》について、【第六章 地中海はなぜ衰退し、バルト海・北海諸国が台頭したのか】から。
“高緯度に位置するフィンランドは、一年を通して低温であり、また夏の日照時間は長いのだが冬の日照時間は非常に短い。冬至の時期になると六時間程度しかない。
 海水の蒸発が進まないため海水のバルト海の塩分濃度は低く、バルト海沿岸に住む人々は、他地域から絶えず塩を輸入する必要があった。
 一方、地中海への水の流入量は少なく、気温が高く乾燥した気候のため、海水は絶えず蒸発しており、塩分濃度は高い。それゆえバルト海と異なり、塩の輸出地域となった”(82p)

最後に感想をひとこと。
【はじめに】で著者は次のように述べています。
“本書が、これまでの主流であった国家形成、国家間の競争、製品開発の歴史とは、かなり違う歴史像を提示していることを信じたい”(6p)
たしかに、これまでとは違う世界史の側面を読むことができました。

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玉木 俊明(たまき・としあき)
京都産業大学経済学部教授。大阪市生まれ。
1987年同志社大学文学部文化学科卒業。93年同大学院博士課程単位取得退学。
96年京都産業大学経済学部講師、2000年助教授、07年教授。
09年『北方ヨーロッパの商業と経済 1550-1815年』(知泉書館)で大阪大学博士(文学)。
著書に『近代ヨーロッパの誕生』『海洋帝国興隆史』(以上、講談社選書メチエ)、『ヨーロッパ覇権史』(ちくま新書)、『先生も知らない世界史』(日経プレミアシリーズ)など。

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