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2018年10月07日21:32

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植物はなぜ薬を作るのか[読書日記694]

題名:植物はなぜ薬を作るのか
著者:斉藤 和季(さいとう・かずき)
出版:文春新書
価格:880円+税(2017年2月 第1刷発行)
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学生時代から薬学に関わってきた著者が初めて(?)書いた新書のようです。
【プロローグ】から、執筆の動機について触れられた部分を引用します。
“なぜ植物は、このような(人間に恵みをもたらす)化学物質を作り出すのでしょうか?
 本書は、そのような基本的な問いかけに答えようとして書かれています”(14p)

目次を紹介します。
 プロローグ
 第一章 植物から作る薬
 第二章 薬になった植物成分
 第三章 植物はなぜ薬を作るのか?
 第四章 植物はどのように薬になる物質を作るのか?
 第五章 植物の二次代謝と進化のしくみ
 第六章 バイオテクオロジーと植物成分
 第七章 人類は植物とどのように相互共存していくべきか?
 エピローグ

印象に残ったところを抜き書きします。

【第一章 植物から作る薬】から、中国最古の薬物書について。
“後漢の時代(25〜200年)に揚子江以北から黄河以南に伝わっていた薬草とそれらの薬効が『神農本草経』(しんのうほんぞうきょう)という書物にまとめられました。(略)
 後代に365種の生薬を記載した書物にまとめられ、それが現代まで伝えられています”(29p)

【第二章 薬になった植物成分】から、甘草(カンゾウ)の価値が高いことについて。
“(甘草に含まれる)グリチルリチンにはさまざまな治療効果があり(略)
 世界中の人が何らかの形でほぼ毎日のように、甘草エキスやグリチルリチンあるいはその誘導体の恩恵にあずかっています。
 そのため甘草の主要産地である中国での乱獲が進み、中国政府は2001年頃から甘草の輸出制限を始めました。(略)
 (現在のところ、甘草は)今後の安定供給が不安視される「第二のレアアース」となっています”(68p)

【第三章 植物はなぜ薬を作るのか?】から、植物が作る化学物質の総計について。
“植物はいったい何種類の成分を作ることが出来るのでしょうか?
 実はこの問に答えを出すことは容易ではありません。
 これを知るための最も直接的な方法は、今までに単離されて学術論文に報告されている植物成分を数え上げることです。
 そのようなことを約15年前にやった研究者がいて、そこでは4万9000種類(個)の成分があると報告されています”(119p)
この文章には、さらに続きがあって、“その実数をもとに、まだ調べられていない植物種に含まれる未知の成分数も推定すると、地球上の植物全体では20万個の植物成分がある〜”(119p)と続いています。

【第四章 植物はどのように薬になる物質を作るのか?】の《【コラム12】アルテミシニンの発見でノーベル賞受賞》から。
“2015年のノーベル生理学・医学賞は、日本人の大村智博士と米国のウィリアム・キャンベル博士による微生物からの新しい抗寄生虫薬の発見と、中国の都冊屠呦呦(Tu Youyou)博士による植物からの新しい抗マラリア薬の発見に与えられました”(148p)

【第六章 バイオテクオロジーと植物成分】の《【コラム13】植物ゲノム研究における日本人の貢献》から。
“植物のゲノム配列決定では、日本人研究者が大きく貢献しています。1986年には、名古屋大学の研究グループによってタバコの葉緑体ゲノム全塩基配列(約16万塩基対)と、京都大学の研究グループによってゼニゴケの葉緑体ゲノム全塩基配列(約12万塩基対)が世界に先駆けて
相次いで決定されました。
著者は、これらの論文が発表された直後の1987年に、ベルギー王国ゲント大学に留学していましたが、この葉緑体ゲノム配列決定の話題が出たとき、現地では、日本からの成果が大きな尊敬と驚きを持って紹介されていました”(194p)

【第七章 人類は植物とどのように相互共存していくべきか?】から、植物の偉大な役割について。
“植物は太古の昔から現代に至るまで、地球を決して汚さず、環境浄化しながら有用な化学物質を作り出す、最も高度に設計され、注意深く運転されている浄化機能と物質生産機能を兼ね備えた理想的な精密化学工場であるということができるでしょう。
 その働きが、この地球の持続可能性を支えているのです”(222p)

また、ヤナギの枝に歯痛を予防する効果があることから爪楊枝にはヤナギの枝が使われていること(51p)や、コーヒー豆が親の木から地面に落ちて芽生えするときに大量のカフェインを周りの土中に放出して、他の競合植物の芽生えを阻害すること(64p)など、興味深い知識も得られます。

最後に、【エピローグ】から著者の締めくくりの言葉を引用します。
“本書の執筆開始から2年が過ぎました。その間、一般向けの新書執筆の難しさを痛感いたしました。特に、専門的な用語や概念をいかに易しく、なおかつ正確に伝えるかという難しさに直面しました。
 しかし、その作業はそれまで当然と思ってやり過ごしていた事柄を、一般的な観点から見直す作業でもあり、私にとっても有益なものでした”(235p)

学生時代から、四十年以上薬学に関わってきた著者が、一般人向けの新書執筆に苦心惨憺する様子を思い浮かべて、微笑ましく思いました。

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斉藤 和季(さいとう・かずき)
1977年東京大学薬学部製薬化学科卒業。
同大学院薬学系研究科に進学。
82年千葉大学薬学部助手。87年ベルギー・ケント大学分子遺伝学教室博士研究員となる。
現在は千葉大学大学院薬学研究院・教授、薬学研究院長・薬学部長、理化学研究所環境資源科学研究センター・副センター長。
生薬学、薬用植物や植物成分のゲノム機能科学、バイオテクノロジーなどの研究と教育に携わる。
文部科学大臣表彰科学技術賞、日本生薬学会賞、日本植物生理学会賞、日本薬学会賞。

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