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2018年08月19日08:59

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「戦後80年」はあるのか [読書日記687]

題名:「戦後80年」はあるのか ――「本と新聞の大学」講義録
モデレーター:一色 清、姜 尚中(いっしき・きよし、カン サンジュン)
出版:集英社新書
価格:780円+税(2016年8月 第1刷発行)
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毎年八月は、戦争に関係した出来事の本を読んでいます。
今年は、本書を読みました。

“私たちに「戦後80年」は到来するのだろうか”という主題で、モデレーターの一色清氏と姜尚中氏が基調講演を行ない、その後に各講師が講演した記録です。
もちろん、“「戦後80年」はあるのか”というタイトルには、「『戦後』がいつの間にか『戦前』に変わっていくのではないのか?」という疑念が織り込まれています。

講師と演題は次のとおりです。

 第一回 基調講演 一色 清×姜尚 中
 第二回 比較敗戦論 敗戦国の物語について 内田 樹
 第三回 本と新聞と大学は生き残れるか 東 浩紀
 第四回 集団的自衛権問題とは何だったのか 憲法学からの分析 木村 草太
 第五回 戦後が戦前に転じるとき 顧みて明日を考える 山室 信一
 第六回 戦後日本の下半身 そして子どもが生まれなくなった 上野 千鶴子
 第七回 この国の財政・経済のこれから 河村 小百合
 第八回 総括講演 姜 尚中×一色 清

印象に残った文章を3つ引用します。
1.
【第二回 比較敗戦論 敗戦国の物語について】から、内田樹(思想家・武道家)さんの言葉。
“僕は歴史修正主義という姿勢に対しては非常に批判的なのですけれども、それは、学問的良心というより、僕が愛国者だからです。
 日本がこれからもしっかり存続してほしい。盤石の土台の上に、国の制度を基礎づけたい。僕はそう思っている”(56p)

2.
【第四回 集団的自衛権問題とは何だったのか 憲法学からの分析】から、木村草太さん(憲法学者)の言葉。
“責任ある自衛隊派遣には、事後的検証や責任追及のための厳格な手続きが不可欠ですが、このように過去の失敗(イラクへの自衛隊派遣)の検証すらできない国が武力行使や後方支援を拡大する、これは今回の法制の最大の問題点だと思います”(125p)

3.
【第六回 戦後日本の下半身 そして子どもが生まれなくなった】から、上野千鶴子さん(社会学者)の言葉。
“その(人口が減少してゆく日本)中で格差拡大よりは、むしろ所得とリスクを再配分することによって、できるだけ格差の少ない社会をつくっていくのがゼロ成長時代の成熟社会のシナリオです。
 こちらの方向に行くしかないと良心的な社会科学者たち……経済学者、社会政策学者、社会学者、政治学者等々は、もう何年も前、人口減少がはっきり目に見え始めた二十年ぐらい前から言っていますが、今でも成長の夢から覚めない人たちが、完全に勘違いの「新三本の矢」とか言っています。
 「新三本の矢」にはエビデンスが全くありません。エビデンスがないものを「妄想」と言います。妄想のもとで政策を出しているのです”(210p)

そして、一番心に残ったのは、次の一文でした。
【第五回 戦後が戦前に転じるとき 顧みて明日を考える】から、山室信一さん(歴史学者・政治学者)の言葉。
“戦前への転換期にみられるメカニズム:
 まず一つは、国際情勢の変化のなかで、仮想敵国と軍事同盟の話が現れてくるときです。武装することで平和を実現する、平和を守るためには軍備が必要であるという主張は、戦後から戦前に転換する際に必ず現れます。(略)
 二つめの契機は、平和を脅かす脅威を煽り、敵を侮蔑し憎悪する集団的心理が現れてくるときです。なぜ戦争が必要なのかといえば、平和を脅かす脅威があるというのです。(略)
 そして三つめの契機は、ある一線を踏み越えるという感覚が個人に現われてくるときです。
 精神分析学にトランスグレッションという概念があります。これは、個人の行動において正常な判断ができなくなると、ふだんならやるはずがないと思っていることをある瞬間に平気でやってしまう精神状況のことです”(158p〜160pから抜粋)

一つ目は、すでに表れています。
二つめも、必要以上に煽る人たちがいるように感じます(平和を脅かす脅威があることは事実ですが)。

家族や友人、そして自分のために、無事に「戦後80年」を迎えてもらいたいと真剣に思いました。

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一色 清(いっしき・きよし)
朝日新聞社教育コーディネーター。1956年愛知県生まれ。
1978年朝日新聞社入社。以降、経済部記者、経済部次長、「アエラ」編集長、「be」エディター、出版部長補佐、「WEBRONZA」編集長などを経て、2013年より現職。
2008〜11年にはテレビ朝日「報道ステーション」コメンテーターも務めた。

姜 尚中(カン サンジュン)
政治学者。東京大学名誉教授。
1950年熊本県生まれ。国際基督教大学準教授、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授、聖学院大学学長などを歴任。
専攻は、政治学・政治思想史。2016年熊本県立劇場理事長兼館長に就任。
著書に『マックス・ウェーバーと近代』『日朝関係の克服』『在日』『姜尚中の政治学入門』『悩む力』『続・悩む力』『心の力』『悪の力』など多数。小説作品に、『母―オモニ―』『心』がある。

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