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2018年08月05日22:17

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戦う動物園 [読書日記685]

題名:戦う動物園 旭山動物園と到津の森公園の物語
著者:小菅 正夫・岩野 俊郎(こすげ・まさお、いわの・としろう)
編者:島 泰三(しま・たいぞう)
出版:中公新書
価格:800円+税(2006年6月 7月発行)
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旭川市の「旭山動物園」と、北九州市の「到津の森公園」の歴史を追った物語です。
2005年秋から2006年春にかけて行なわれた、旭山動物園の小菅園長と到津の森公園の岩野園長の対談をもとに霊長類学者の島氏がまとめたとあります。

目次を紹介します。
 はじめに
 1 旭山動物園の衝撃
 2 どん底
 3 逆転
 4 これからの子どもたちへ――動物園から
 あとがき

小菅園長と岩野園長は、同年齢であり、獣医として入園、どん底の時代を経て園長になったという経緯も共通点です。
【1 旭山動物園の衝撃】には次のようにあります。
“小菅と岩野のバイタリティーはたぶん、生得のものだろう。それは彼らの食欲、声の大きさ、動きの大きさからもよくわかる。
 しかし、ふたりは幸せである。尊敬できる友を同じ職業のなかでもつことができるのは、そうそう出会う幸運ではない”(22p)

【1 旭山動物園の衝撃】では、旭山動物園のスタッフたちの苦労を次のように書いています。
“この小菅園長たち、動物園幹部の知恵と工夫を軽く見てはいけない。野性の動物をあつかうことは、毎日が戦いの連続である。
 彼らは家畜ではないから、人間が管理するのに都合のよい特性をもち合わせていない。むしろ、それがないから家畜にならなかったといってもよい”(32p)

そして、ペンギンの泳ぐ姿を鮮明に見えるようにアクリルの藻を掃除するスタッフたちの努力(31p)や、ペンギンの突然死を防ぐ工夫(51p)などが語られています。
小菅園長の言葉が感動的です。
“「動物たちがつらそうに見えたら、その動物園は負けだ」と。
 彼はあくまでも武道家であり、人生のすべてを「勝負」で考えている”(40p)

また、各章に散らばっているトリビアにも楽しんだり、驚いたりしました。
3つ紹介します。
1)世界初の動物園(禁漁区)は日本ではないかという仮説:
 “日本初の禁漁区は「禁野(しめの)の令」(大同四年[西暦809年])による春日大社の山林の保護(実施はその半世紀後)である。
  レオポルドによれば、世界最古の野生動物の管理は、元(げん)の先祖のフビライによる十三世紀の動物保護区だというが、(Leopold、1933)、日本の保護区はそれより400年も早い”(63p)
2)動物園は三千年前からあったという話:
 “人間はどういうわけか、三千年もの昔から、野性の動物を飼育して動物園のようなものを作っていた〜”(94p)
3)チンパンジーの驚異的な握力:
 “チンパンジーの握力は200キロともいわれている”(156p)ので、脱走したチンパンジーを連れ帰るためには“腕を折られるのを覚悟しなければならない”(155p)

【2 どん底】では、二つの動物園の逆境について書かれています。
旭山動物園はエキノコックス(キタキツネなどから人や動物にうつる感染症)に襲われ、到津の森公園は閉園という憂き目にあっています。
この逆境を地道な努力で挽回していった動物園スタッフたちの献身的な仕事ぶりに感動しました。

【2 どん底】から、本書で一番熱いと思った「動物園人」について書かれた文章を引用します。
“「ストーリー」とは、動物園を作る側の存在証明のことである。(略)
 動物園がその「ストーリー」を作り上げるためには、園長をはじめとする「動物園人」の人格が問題なのだ。
 市役所のポストとして、二年、三年間で次々に替わってゆく園長職では、計画を練る時間もない。子どもたち、地域の住民、市民たちに親しまれる人格的な中心なしには、「ストーリー」の書きようもない。
 そして、動物園の園長とは、ただの経営者でも、ただの獣医でも、ただのシャッポでもない。野性動物という、人間とはまったく別の原理で生きている命について、誰より深い理解をもっている者であり、しかも、それを子どもたちに、未来の世代へ伝えようという情熱をもっている者でなければならない”(83p)

逆境にも負けず、動物園を立て直した両園長とスタッフたちの感動的な「ストーリー」でした。

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小菅 正夫(こすげ・まさお)
1948年(昭和23年)、札幌市生まれ、73年、北海道大学柔道部・北海道大学獣医学部獣医学科卒業。旭川市旭山動物園に就職。
同園飼育係長、副園長を経て、95年より園長。鳥類の染色体、猛禽類の野生復帰、野性動物医学を専門とする。
(社)日本動物園水族館協会副会長、文部科学省中央教育審議会臨時委員、北海道環境審議会自然環境会専門員、柔道四段。

岩野 俊郎いわの・としろう)
1948年(昭和23年)、下関市生まれ、72年、日本獣医畜産大学獣医学科卒業。73年、西日本鉄道株式会社到津遊園に就職。
97年、同園園長に就任。2000年の到津遊園閉園後、01年、西日本鉄道株式会社退職。
北九州市都市整備公社到津の森公園準備室長を経て、02年、到津の森公園長となる。(社)日本動物園水族館協会理事(種保存委員会事務局長)、NGO日本アイアイファンド理事、NPOサンクチュアリプロジェクト理事。

島 泰三(しま・たいぞう)
1946年(昭和21年)、下関市生まれ、71年、東京大学理学部卒業、房総自然博物館館長、日本野性生物研究センター主任研究員、国際協力事業団マダガスカル国派遣専門家(Re:霊長類学指導)などを経て、現在、NGO日本アイアイファンド代表、理学博士(京都大学)、マダガスカル国第五等勲位「シュヴァリエ」

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