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2018年07月15日08:09

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絶滅の人類史[読書日記682]

題名:絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたのか
著者:更科 功(さらしな・いさお)
出版:NHK出版新書
価格:820円+税(2018年1月 第1刷発行)
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今年2月にNHKで放送された「人類誕生」を見たことがきっかけで、本書を手に取りました。
内容がほぼ重なることから、NHKスペシャルの原作ではなかったかと思います。

目次を紹介します。

 序章  私たちは本当に特別な存在なのか
 第1部 人類進化の謎に迫る
  第1章 欠点だらけの進化
  第2章 初期人類たちは何を語るか
  第3章 人類は平和な生物
  第4章 森林から追い出されてどう生き延びたか
  第5章 こうして人類は誕生した
 第2部 絶滅していった人類たち
  第6章 食べられても産めばいい
  第7章 人類に起きた奇跡とは
  第8章 ホモ属は仕方なく世界に広がった
  第9章 なぜ脳は大きくなり続けたのか
 第3部 ホモ・サピエンスはどこに行くのか
  第10章 ネアンデルタール人の繁栄
  第11章 ホモ・サピエンスの出現
  第12章 認知能力に差はあったのか
  第13章 ネアンデルタール人との別れ
  第14章 最近まで生きていた人類
  終章  人類最後の1種

それぞれの章が、新知識満載で読み応えがあります。

著者は【第1章 欠点だらけの進化】で、人類の欠点を次のように述べています。
“直立二足歩行の最大の欠点は、短距離走が苦手なことだ。(略)
 肉食獣の中では走るのが遅いと言われるライオンでさえ、オリンピックの100m足で金メダルを取ったウサイン・ボルトより速く走れる。
 いや、でっぷりしたカバだって、だいたいボルトと同じくらいの速さで走れるのだ”(33p)
そのほか、直立二足歩行の欠点として、“遠くから(肉食獣に)見つかってしまう”“腰痛や難産”が挙げられています。

本書は、そんな「欠点だらけの直立二足歩行の人類」が、なぜ繁栄したのかを論考しています。

一番興味深かったのは、第二部【第7章 人類に起きた奇跡とは】です。
2つ引用します。(⇒は私の感想です)

1.
“(初期ホモ属の分類は混乱しているものの)これらの化石から大きな進化傾向が読み取ることはできる。
 それは、脳が大きくなってから石器を使い始めたのではなく、石器を使い始めてから脳が大きくなった、ということだ”(124p)
 ⇒このあと、著者は「石器を使う」「石器を使って肉を食べる」「肉を食べることによって、エネルギー消費の激しい脳を大きくできた」という推理を展開し、説得力がありました。

2.
“もしも他の人類が生きていたら、世界はどんな感じだったろう。それは一人っ子が、兄弟姉妹がいたらどんな感じだったろう、と考えるようなもので、なかなか想像することは難しい。
 ネアンデルタール人が生きていたら(略)私たちとネアンデルタール人は、学校で机を並べることになるかもしれない。
 たぶん算数や国語は私たちの方がよくできるだろう。でも、ネアンデルタール人の脳は私たちよりかなり大きかったのだから、なにか私たちが考えていないことを考えていたのではないだろうか。
 何かの折に、ネアンデルタール人はとんでもない能力を発揮したのではないだろうか。私たちが及びもつかない素晴らしい知性を。
 でも、それを知る機会は永遠に失われてしまった。一度でいいから、ネアンデルタール人と話してみたかった。
 そう考えて、心から残念に思うのは、私だけではないだろう”(139p)
 ⇒絶滅したネアンデルタール人が、私たちホモ・サピエンスより優れていたかもしれないという想像力と、“話せなかったことを心から残念に思う”と書く、優しさが著者の真骨頂かもしれません。

【終章 人類最後の1種】で著者は次のように述べています。
“もしもホモ・サピエンスが、あらゆる点でネアンデルタール人よりも劣っていたとしても、ホモ・サピエンスの方がたくさん子供を産んでたくさん育てれば、ネアンデルタール人は絶滅するしかないのだ”(244p)

次々に紹介される旧人類たちの名前を覚えるのが大変でしたが、著者の「人類」愛を感じた本でした。
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更科 功(さらしな・いさお)
1961年、東京都生まれ。
東京大学大学院理科系研究科博士課程修了。博士(理学)。
現東京大学総合研究博物館研究事業協力者。
著書に『化石の分子生物学』(講談社現代新書、講談社科学出版賞受賞)、『爆発的進化論』(新潮新書)など。

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