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2018年03月11日21:28

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それでもこの世は悪くなかった[読書日記668]

題名:それでもこの世は悪くなかった
著者:佐藤 愛子(さとう・あいこ)
出版:文春親書
価格:850円+税(2017年2月 第3刷発行)
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佐藤愛子さんが語る、人生論、幸福論です。

見返しの惹句を引用します。
“人から見れば悲劇かもしれない人生。
 しかし、正々堂々、力いっぱい生きた
 私はいま、満族だ――こんな佐藤愛子は、どうしてできた?
 93歳、初の語り下ろし人生論”

目次を紹介します。
“第一章 私をつくった言葉
 第二章 幸福とは何か
 第三章 死とは何か”

印象に残った文章を引用します。
⇒は私のコメントです。

【第一章 私をつくった言葉】から。
“モルヒネ中毒の夫が死んだ後、よせばいいのに私はまた結婚したわけです。田畑麦彦という同人雑誌仲間の作家です。
 そしてその男が事業をやって失敗し、二億円からの負債を負いました。昭和四十年代の二億円というと見当もつかない額でした”(41p)
⇒私事ですが、私の父が昭和四十年代に建てた一軒家が一千万円しませんでした。二億円の価値は推して知るべしです。

同じく【第一章 私をつくった言葉】から。
“「あの人どうしてるかな」と思う人がだんだん増えて行くのが、私はとても嬉しいです。私の人生が充実しているな、と思うのは、そういうちょっとした袖振り合うも他生の縁という場合のことで、ああ、人間てのはいいもんだなあ、といつまでも思い出す人がいますね”(66p)
⇒この言葉は、夫の二億円の借金返済に追われていた時代の借金取りとのエピソードのあとに書かれています。
 元借金取りのことを「あの人どうしてるかな」と思えるというのは、すごい女傑ですね。

【第二章 幸福とは何か】から。
ここでは、兄・サトウハチローのことを次のように語っています。
“サトウハチローというのは、そんな風にとんでもない不良で、本当にどうしようもない男です。
 けれども、彼が作った詩の中で一つだけ、ああ、この詩はいいなあと私が思った詩があるんです”(94p)
⇒この「いいなあと私が思った詩」については、本書94〜95pをご覧ください。

【第三章 死とは何か】から。
“今は作家といっても常識をわきまえたちゃんとした人が多いんでしょうけど、昔は作家というと、はずれ者というか、まあ普通の常識でははかりきれないヘンなのが普通でしたね。(略)
 私もそれに馴れて、だからヘンな人と波長が合って仲良くなってしまう。(略)
 だから私の交友関係というのは、どうしても狭くなってしまう。遠藤周作さん、川上宗薫さん、北杜夫さんの三大奇人に、色川武大さん、中山あい子さんが続きます”(132p)
⇒遠藤周作さん、北杜夫さん、色川武大さん、懐かしいです。
三人とも若い頃に読んだ作家です。

気楽に読めるけれど、実はなかなか重いというちょっと変わった本でした。

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佐藤 愛子(さとう・あいこ)
大正12年大阪生まれ。甲南高等女学校卒業。
昭和44年『戦いすんで日が暮れて』で第六十一回直木賞を受賞。昭和54年『幸福の絵』で第十八回女流文学賞を受賞。
父・佐藤紅緑、兄・サトウハチローを生んだ佐藤家の荒ぶる魂を描いた『血脈』の完成により、平成12年に第四十八回菊池寛賞を受ける。
平成27年『晩鐘』で第二十五回紫式部文学賞受賞。
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