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2017年11月12日18:35

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転換期を生きるきみたちへ[読書日記652]

題名:転換期を生きるきみたちへ
編者:内田 樹(うちだ・たつる)
出版:晶文社
価格:1400円+税(2017年2月 2刷)
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内田樹さんが呼びかけで編纂された中高生向けの論文集です。
寄稿者は11人の方々(下の著者紹介欄をご覧ください)で、取り上げたテーマから筆者が何を伝えることが中高生に役立つと考えているか分かります。

編纂に至った事情を「まえがき」で内田さんは次のように述べています。
2ヶ所引用します。
1.
“刻下のわが国の政治・経済・メディア・学術・教育……どの領域を見ても、「破綻寸前」というのがみなさんの現場の実感ではないかと思います。(略)
 このような局面に際会したとき、私たちが果たさなくてはならない最優先の仕事は「今何が起きているのか、なぜそのようなことが起きたのか、これからどう事態は推移するのか」を責任をもって語ることだと思います。とりわけ若い人たちに向けて、それをしっかりと伝えることだと思います”(6p)
2.
“寄稿をお願いしたみなさんは、それぞれのご専門の立場にあって、「転換期を若い人が生き延びるための知恵と技術」について有用な経験的知見をお持ちだと思います。それをぜひ彼らに「贈り物」として差し出して頂きたい”(8p)

私が読んで興味深かったのは次の3つでした(他の論考も面白いのですが、特にという意味です)。
 平川 克美:人口減少社会について根源的に考えてみる
 白井 聡 :消費社会とは何か――「お買い物」の論理を超えて
 山崎 雅弘:「国を愛する」ってなんだろう?

それぞれから印象に残った部分を引用します。

1.平川 克美:人口減少社会について根源的に考えてみる
日本の人口減少の理由が「女性が様々な理由で子どもを産まないからというのは間違っている」指摘しています。

“多くの人々は経済的理由や、将来に対する不安によって女性が子どもを産まないのだと考えているからです。
 しかし、前出のグラフ(本書105p「長期的な人口の推移と将来推計」)を見れば明かなように、最も日本人が貧しかった時代(たとえば戦国時代や、終戦後の食うや食わずの時代)に、逆に人口は増えているのです”(110p)
「では、なぜ日本の人口は減り続けているのか?」の理由は、本書118pをご覧ください。

2.白井 聡 :消費社会とは何か――「お買い物」の論理を超えて
「消費」する物が「ないと困る物」から「周囲からこう見られたい物」に変化してきていると、次のように書いています。

“食事は絶対に必要、「ないと困り」ます。(略)
 多くの人はできれば美味しい物を食べたいと考えます。「美味しい」とは「快さ」の一種ですから、美味しい物は「あれば快適」です。
 ここまでは「物に対する欲望」であると言えますが、「メディアで話題になっているあのレストランに行きたい」となると話が変わってきます。(略)
 「あの有名でお洒落な店で食事をしたんだよ」と周囲に言いたいために食事をするならば、これは「物に対する欲望」に基づいて行動しているというよりも、周囲から「自分はこう見られたい」という欲望を動機として行動していることになります。つまりここで欲望が向かう対象が「物そのもの」ではなく、物に付随する「意味」や「記号」に変化しているのです”(208p)

そして、次のように加えています。
“大事なのは、物を食べれば、お腹が一杯になって欲望は消滅しますが、「意味」はいくら食べてもお腹が一杯にならないということです。メディアが着目する「お洒落な食べ物」や「お洒落なお店」は、次から次へと現れてきますから、いくら頑張ってそれを追いかけても、満足することはありません”(208p)

3.山崎 雅弘:「国を愛する」ってなんだろう?
“政治家が使う「国」という言葉の意味を考えよう”という章で、次のように分類しています。

“政治家が使う「国」という言葉は、たいていの場合、次の三種類の意味で使われます。
 まず、外交的に「独立国」として承認されている国家の領土【A】。
 次に、その領土内に住む国民を特定の政府が統治する国家体制【B】。
 そして、政府に統治される側の、一人一人の国民の命と生活環境【C】”
このように分類した上で、“第二次世界大戦でフランスがドイツに降伏した理由は【C】を【A】【B】より大事と考えたから”(231p)と説明し、一方、当時の日本は“【B】の「国家体制」こそが絶対的な「守るべき国」であると理解”し、【C】国民を犠牲にしたと述べています。

中高生向けに書かれた本ですが、それぞれ説得力があり、おじさん(私)にも読み応えのある内容でした。

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内田 樹(うちだ・たつる) 1950年、東京都生まれ。武道家。
岡田 憲治(おかだ・けんじ) 1962年、東京都生まれ。現代デモクラシー理論。
小田嶋 隆(おだじま・たかし)1956年、東京都生まれ。コラムニスト。
加藤 典洋(かとう・のりひろ)1948年、山形県生まれ。文芸評論家。
白井 聡(しらい・さとし)1977年、東京都生まれ。政治学、社会思想。
想田 和弘(そうだ・かずひろ)1970年、栃木県生まれ。映画作家。
高橋 源一郎(たかはし・げんいちろう)1951年、広島県生まれ。作家、文芸評論家。
仲野 徹(なかの・とおる)1957年、大阪府生まれ。生命科学。
平川 克美(ひらかわ・かつみ)1950年、東京都生まれ。事業家・文筆家。
山崎 雅弘(やまざき・まさひろ)1967年、大阪府生まれ。戦史・戦争史研究家。
鷲田 清一(わしだ・きよかず)1949年、京都府生まれ。臨床哲学。

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