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2017年05月29日14:26
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｢希望荘｣／宮部みゆき
｢杉村三郎｣を主人公にしたシリーズの４冊目｡
｢誰か Somebody｣｢名もなき毒｣｢ペテロの葬列｣という長編３冊に続く、
中編集｡(82p〜150Pの４編の中編を掲載)
｢杉村三郎｣は､元々児童書の編集者だったのが、
財界の実力者の非嫡出子｢菜穂子｣と出逢い、
今多ｺﾝﾂｪﾙﾝｸﾞﾙｰﾌﾟの広報室編集者兼記者に転身。
そこで、岳父の依頼によって関わった身近な問題が､
実は、人の心の小さな｢悪意｣が滞って絡み合い､
大きな｢罪｣となってしまった現実と遭遇した。
そんな日々の中､妻の背信によって離婚。
娘｢桃子｣を菜穂子の元に置いて､
１人､私立探偵として独立｡
北区､隅田川沿いの尾上町に落ち着き､踏み出した
新たな人生が､4編の中編で描かれる。
＞聖域
ご近所の奥さんたちから、
3月に亡くなったはずの老婆を､11月､街で見かけた！
事情を確かめてほしいという依頼が舞い込んだ。
老婆は､三郎の借家の大家が持つ賃貸アパートの住人だった｡
怪しげな宗教にカブレて、老母のわずかな所持金も
つぎ込みそうな娘が居たらしい。
まさか、娘に拉致された？
しかし､見かけた老婆は身なりもよく幸せそうだったというのだが｡
三郎の調査は､地味で丁寧である｡
しかし､天性のひらめきで事実が明らかに！
三郎は大家さんや奥さんたちの信頼をかち得た。
＞希望荘
老人ホームで暮らしていた父が、生前、
自分は人殺しをしたことがある、と言い出した。
それも､周囲にホームのスタッフが何人も居るところで…
ボケ症状の一端だったのか？
しかしその状況をあまりに詳細に話したので､もしや…
亡父は本当に？
そんな調査が依頼された。
ホーム付近で女性が乱暴され殺された事件があり、
放映されたTVを見たことがきっかけ？
調べてみると､老人が若かった頃､周囲でそんな事件が
確かに起こっていたが､犯人は捕まっていた。
老人の孫息子｢相沢幹生｣も何か知っているらしい…
三郎の調査は、老人の深い愛を､息子と孫に明らかにした。
＞砂男
時を少し遡り、
三郎が今多家を出て､職も辞し､
山梨県北部の桑田町の実家に帰省していた時の出来事。
父の体調が悪く心配で､
先の人生を考えたいとも思い、
観光案内所のﾌﾘｰﾍﾟｰﾊﾟｰの記者や地域の産直市場｢なつめ市場｣を手伝う中
蕎麦屋｢伊織｣の主の失踪事件に関わった。
とても仲のいい夫婦で､おまけに妻は妊娠中｡
ところが､失踪の理由は女！
｢好きな女ができたので駆落ちする｡すまない！｣
そんな書置きがあったという｡
そんなある日､
東京で調査会社を経営する｢蠣殻 昴(ｶｷｶﾞﾗ ｽﾊﾞﾙ)｣に出会う｡
彼は三郎の過去を調べ上げ､その上で､
｢伊織｣の夫失踪事件解明の手伝いをしてくれと提案した｡
そこから､三郎の力が発揮される。
そして、地道に調べて得た様々な断片が繋がった時…
“真の悪”は存在するのか？
愛のために人はどこまで身を犠牲にできるのか？
この事件をきっかけに､
蠣殻の知己を得て､三郎は東京に戻り､
｢杉村探偵事務所｣を開いて独立したのだ。
＞二重身(ドッペルゲンガー)
多くの作家が､＜3/11＞に直面し、
大震災にまつわる作品を書いた。
これもそんな一編か。
アンティークショップの店長が、
東北に仕入れに行って3/11の大震災に合い被災したらしい。
ずっと連絡が取れず、周囲は心配している。
店長と親密だった女性の娘｢伊知 明日菜｣が相沢幹生の紹介で
三郎を訪れた。
明日菜はなかなか問題を抱えていて、
まず自身の物言いから変えようと､ｾﾝｻｰ作動式のICﾚｺｰﾀﾞｰを
常時携帯していた。
それが､この事件の突破口を開く。
人はだれも､自分の中に､
真摯に頑張る善なる自分と、
時々､ふっと現れる､悪なる自分を包有しているのだろうか？
その悪なる自分に､ある日ふと気づいてしまった時、
人は…
色々､自分が原因でないのに妙な状況に巻き込まれ、
面倒だったり不運だったりで人生を狂わせてしまった三郎だが､
それでも､周囲の人々には恵まれているようだ｡
調べ物のエキスパート｢木田ちゃん｣。
全面的にバックアップしてくれる｢蠣殻 昴｣氏。
地主で資産家の大家｢竹中夫人｣と､
竹中家のはみ出し者の三男トニーこと｢冬馬｣。
三郎と一緒に都心の一等地から北区尾上町に都落ちしてくれた
喫茶店｢侘助｣のマスター。
そしてご近所の奥さんたちと
その辺の大人より頼りになりそうな少年少女
｢相沢幹生｣と｢伊知明日菜｣。
彼らはこれからの三郎をどう支えてくれるのだろう？
どうしても続編を楽しみにしてしまう。
と同時に、ドラマ化も期待！
小泉孝太郎さんは、宮部さんも｢三郎は彼！｣と言ったというほど、
私にはピッタリくる。
本作を読みながら、脳内ドラマではすでに彼が右往左往…
映像の力ってスゴイよねぇ〜
ただ、
あえてここで言いたいのは、
このシリーズ、見事に！後味の悪〜い作品である。
こんな読後感を持たせながらも、
読者を堪能させてしまうのだから、やはり、
宮部さん、本当に筆力のあるスッゴイ作家だ！
中編ながら、そこいらの長編と比較にならないほど
人間を深く掘り下げ書き込み。
だからこそ、“悪”を単なる“悪”とバッサリ切り捨てられない。
どんな人にもあり得る分岐点を
その人が間違った方向に踏み出してしまったという事が
結末をあっさり呑み込むことを躊躇させるのだろう。
これからも、三郎さんの供してくれる｢苦汁｣を、
宮部ファンは読後また｢う〜〜っ ニガイ！｣と思いつつ、
脳と心の嚥下力をフル稼働させて呑みこみ、
楽しませて頂くのだろう。
＜裏表紙＞
なんとなく今後の三郎さんを暗示するような、
裏階段を歩む彼…
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