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2016年12月21日13:11
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「蜜蜂と遠雷」／恩田陸
ﾋﾟｱﾆｽﾄが謎を解くﾐｽﾃﾘｰ「岬洋介シリーズ」を読んで、
著者の中山七里さんを､私は、
見事に音楽を文章で描写する作家、と書いたのだけれど、
この作品の恩田さんはもっと凄い！
もっともっと描写が“緻密”である。
これが筆力の差、なのかな〜？
この作品の中で、恩田さんの描く文字は音符になる、
いや、作中人物の奏でる音楽の楽譜を恩田さんは文字で表す…
物語は、
｢第６回芳ケ江国際ピアノコンクール｣を
エントリー
第一次予選
第二次予選
第三次予選
本選
の５章に分け描かれる。
表紙を開き、目次を見て、1ページめくると、
まず｢第６回芳ケ江国際ピアノコンクール｣の課題曲と要綱が表示される。
そして、次のページにメインの登場人物4人の
提出した選択課題曲が…(あまりに詳細につきここに書くのは断念｡)
羅列された楽曲…
私でも作曲者は聞いたことくらいはあるが、
それがどんな曲か？
それを“選ぶ”ということが何を意味しているのか？
わからない…
その後、物語を読み進めるにあたって、
これがわからないから物語を楽しめない、ということは全く無いのだけれど、
音楽に造詣の深い方が、それをわかった上で読んだら、
きっと私の何倍も楽しめるのだろうな〜と、
読了後、しみじみ羨ましく､また､妬ましくさえ思った。
さて、その４人とは…
栄伝 亜夜
天才少女ﾋﾟｱﾆｽﾄとして､かつて脚光を浴びるも､
ずっと密着して支えてくれた母の死で､ピアノが弾けなくなって久しいが､
周囲の人々の声に応えるため､もう一度だけ舞台に立ってみようと思い…
マサル・カルロス・レヴィ・アナトール
既に名声を博す､若手ピアニスト｡
このコンクールで箔を付け､さらなる飛躍を目指す。
いつも､心の奥である女性を求め､捜し続けている｡
高島 明石
幼少時､祖母にピアノの才能を絶賛されて育つも､
実は､井の中の蛙でしかなかった事に気づき､
ピアニストへの夢はすっかり捨てていたつもりだったのだが…
ひょんな事で再び夢を見はじめた。
そして
風間 塵
彼の存在こそが､この物語の軸！
まだ16歳という彼のオーディションでの演奏は､
審査会場の空気を“覚醒”させ､
審査員たちを、 よくもわるくも“震撼”させた！
彼には､去る2月ひっそり亡くなった稀代の天才ﾋﾟｱﾆｽﾄ､ﾕｰｼﾞ・ﾌｫﾝ・ﾎﾌﾏﾝが
推薦状を寄せていたことは､音楽界を興奮させた｡
その推薦状には､
皆さんに､カザマジンをお贈りする｡
文字通り､彼は『ギフト』である｡
恐らくは､天から我々への｡
だが､勘違いしてはいけない｡試されているのは彼ではなく､私であり､皆さんなのだ｡
彼を『体験』すればお分かりになるだろうが､彼は決して甘い恩寵などではない｡
彼は劇薬なのだ｡
中には彼を嫌悪し､憎悪し､拒絶する者もいるだろう｡
しかし､それもまた彼の真実であり､彼を体験する者の中にある真実なのだ｡
彼を本物の『ギフト』とするか､それとも『災厄』にしてしまうのかは､
皆さん､いや､我々にかかっている｡
ユージ・フォン・ホフマン
とあった｡
劇薬かもしれない彼は､旅から旅の養蜂家の息子｡
自分のピアノを持たない｡
オーディションの舞台で立派なグランドピアノに出逢った瞬間…
少年は目を輝かせ､微笑んだのだ｡
そして､おずおずと手を伸ばし､ピアノに向かって歩いていった｡
まるで､出会ったとたんに一目ぼれした少女に向かって歩いていくかのように｡
(中略)
少年の目に､喜悦が浮んだのだ｡ それは明らかに快楽の絶頂の表情だった｡
(中略)
純度の高いモーツァルトを弾く時､誰もが必死に自分をモーツァルトの純度に
引き上げようとする。
無垢で混じり気のない音楽を表現しようと､目を見開き､
無垢さと音楽の歓びを強調しようとするのだ｡
しかし、少年はそんな演技をする必要が全くなかった｡
リラックスしてピアノに触れているだけで勝手にそれが溢れだしてくるのだ。
こんな劇薬が、ほんの数日の間に､
亜夜、マサル、高島や他の人々に及ぼした効果は？！
恩田さん｡
好きだけれど､書く内容があまりに多岐に渡り、
私にとっては当たり外れのある作家さんだが､
これは好き！
まだまだここに書き残しておきたい文章がいっぱいあるほど､
表現そのものがイイし、また、
ピアノのコンクールという､普段は接点のない世界の裏側を､
わずかではあるが垣間見せていただけて、
（ここまで書くのに､どれほどの調査をされたことだろう？
作家さんの大変さをしみじみ拝察する。）
とても興味深かった。
メインの登場人物以外も繊細に描き分けられた演奏｡
実際の楽曲を聴きながら再読することができたら､
楽しいだろうな〜
二段組みかなり字の小さい507ページ+前5ページ+後１ページ だが、
何度でもイッキ読みしたい素敵な作品である。
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