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2016年06月11日22:11

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「寒い国から帰ったスパイ」

先日NHK−BSで映画「寒い国から帰ったスパイ」を見た。

ずっと若いころこの映画を見たし、原作も読んだ。

若いころ一時エスピオナージュにはまってフリーマントル、ル・カレ、フォーサイスなどを読み漁っていたことがあった。
「寒い国から帰ったスパイ」はそんなル・カレの原作を映画化したものだ。

このドラマはたいへん優秀な作品で、原作も映画も数々の賞を受賞している。
面白いのは映画の題名は「寒い国から帰ったスパイ」だが小説は「寒い国から帰ってきたスパイ」だ。
(原題は"The Spy Who Came in from the Cold"となっている)

この作品がシリアスで非常にリアルなのはル・カレ自身がイギリス情報部員だったことと関係がある。


映画の主演はリチャード・バートンでなかなかの好演だった。
リチャード・バートンはエリザベス・テーラーの元ダンナといったほうがわかりやすいか。
(のちに離婚したので一時ダンナというべきか)

ざっとあらすじを説明すると。
まだベルリンの壁がある冷戦時代、英国諜報部員でベルリンの責任者だったリーマス(リチャード・バートン)が東側に送り込んだ部下が西ベルリンに戻ろうとして境界線上で見つかり撃ち殺される。
このほかにもリーマスの部下が次々に殺される。
東側の諜報部員の責任者であるムントが背後にいることを知り、リーマスはムントを憎悪し失脚させたいと思う。
リーマスは英国に呼び戻され諜報部員を解雇される。
職安で職探しをして図書館の整理員の仕事を紹介され勤め始める。
図書館の若い司書リズ・ゴールドはどこか陰のある中年のリーマスに惹かれ、二人は恋人同士となる。
リズは共産主義の理想に燃えた共産党員で、活動している。
あるときリーマスは雑貨屋でツケで頼むが断られたため主人を殴り倒す、そのため刑務所に入る。
刑務所を出てきたが図書館も解雇され職を失ったリーマスに東側の諜報部員が言葉巧みに近づき、大金と引き換えに英国の情報提供を持ち出す。
リーマスはムントを陥れるためにこの話に乗ってムントに近付こうとする。(2重スパイという非常に危険な行動に出る)
リーマスは東ドイツへ渡り、ムントの部下のフィドラーの尋問を受ける。フィドラーはムントと対立関係にありムントが2重スパイではないかとの疑いを持っているため、リーマスとある意味意気投合する。
(小説では二人の間にイデオロギー問答があったりする。)
フィドラーはムントを2重スパイ容疑で上層部に告発しており、そのためムントは拘束されて裁判が行われる。
リーマスは証人としてこの裁判につれてこられる。
リーマスはイギリス情報部からムントに金が渡ったらしいことを証言したため、ムントは追い込まれる。
ムントの弁護人はこのとき共産党員として東ドイツを訪れていたリズ・ゴールドを証人として出廷させる。
リズは恋人であったリーマスがここにいることに驚き、なぜここにいるのか何の裁判なのかわからないまま質問に答えていく。そのなかで何者かから大金を渡されたりリーマスがら別れを告げられたことなどをしゃべってしまう。
ここで形勢は逆転、ムントの告発はムントを陥れるためフィドラーが仕組んだこととなり、フィドラー、リーマス、リズは拘束され、ムントは解放される。
しかしリーマスとリズはムントによって留置場から逃がされる。ベルリンの壁のある場所へ行きそこを乗り越えるよう指示されるが、逃げる車の中でリーマスはすべてのからくりがわかってしまう。
ムントはやはり2重スパイで英国にとって最も重要であるため、すべてのことがムントを保護するためにイギリス情報部の上層部でとられた作戦であったことに気が付く。
ベルリンの壁の指示された場所をよじ登って超えようとしているとき突然探照灯で照らされ銃撃を受け、リズが撃ち落される。
壁の西側からは情報部の上司が”女はいいからこちらへ飛び下りろ”と叫ぶがリーマスはリズが落ちたところへ降りる。その瞬間リーマスも射殺される。


このドラマのテーマは国家と個人だと思う。
国家のために個人は使い捨てられていくが、個人は国家より大切だというル・カレの叫びが聞こえるようだ。
イギリスは国家にとって最も重要なムントを保護するためにさまざまな個人を使い捨てていく。

映画では登場人物の背景はあまり詳しくはないが小説では緻密に各人の性格や経歴が語られる。
たとえばムントは元ナチスで反ユダヤ思想だが部下のフィドラーはユダヤ人で理想主義の共産主義者だ。
そのムントをイギリスは金で二重スパイとして利用する。
ムントを保護するためにリーマスの解雇から図書館の勤務、敵方のスパイとの接触などすべてのことが情報局の上層部で仕組まれていく。
そのためにリーマスの部下たちが次々と使い捨てられリーマス自身も捨てられる。

雑貨屋の主人を殴るのも、リーマスがスパイを解雇されたとたん金もない世間から何んの保証もない中年の根無し草のような人物になったことを暗示している。

このような中年のしがないスパイという話はフリーマントルの作品に出てくるチャーリー・マフインと同じだ。


当時は冷戦時代で実際にもベルリンの壁を境にスパイ合戦が日常的に行われていた。
スパイ交換やスパイの処刑などしょっちゅう新聞に出ていた。
プロヒューモ事件なんてのもあった。(いまだに名前を憶えているので当時は一大スキャンダルだったなと思う)

この映画を見て当時のことを思い出した。今は冷戦もなくなりベルリンの壁も崩壊してこのようなドラマの舞台もなくなったが、2,3年前アメリカのテレビドラマで「24」というのがあった。
24時間の出来事をほぼ実時間で進行するという斬新な方法で評判になったので見た人も多いと思う。
物語はアメリカをテロから守るというスーパーマン系列のヒーローの話だ。

この物語の敵国は中国になっている。主人公は中国につかまり拷問を受けたりする。ベルリンの壁が無くなってこのようなドラマの舞台がなくなったと思ったら中国に替わっていた。(実際もそうかもしれない)


いま世界はキリスト教思想とイスラム教思想の争いとなっている。人間は争いをやめることはできないのであろうか。


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