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2016年03月05日08:47

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死体監察医 法医学事件ファイル[読書日記565]

題名:死体監察医 法医学事件ファイル
著者:三澤 章吾(みさわ・しょうご)
出版:竹書房新書
価格:850円+税(2013年12月初版第一刷発行)
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法医学の草分け的な存在、医師(法医学):三澤章吾さんの事件簿です。
三澤さんは昭和13年(1938年)生まれ。今年(平成28年=2016年)で78歳になられます。
本書の冒頭で、“私はこの仕事に入ってから四〇余年、約三〇〇〇体の検死や解剖を行なってきた”(4p)と述べています。

さて、今はサスペンス映画などで『法医学』という言葉が定着しましたが、以前は違ったようです。
「昔は『仕事は、法医学』と言うと、『方位ですか? 占いですか?』と聞かれた」というエピソード(33p)も紹介されています。

目次を紹介します。
 はじめに
 第一章 なぜ死体を解剖するのか
 第二章 遺体の無念を晴らすため、二四時間体制
 第三章 実録 私が解剖した変死体と刑事捜査
 第四章 現代社会に死と向き合う
 第五章 日本では見逃されている殺人事件がある
 あとがき  死体は必ず真実を語る

『第一章 なぜ死体を解剖するのか』では、解剖医の仕事が紹介されていますが、その中で驚いたのは“毎年、緊急治療室に運ばれる解剖医がいる”という一節。
“解剖を始める前の準備として重要なことは、バイオハザードを徹底的に行わなければならない”と前置きしたうえで、次のように書いています。
“手袋は、まずゴム手をして、その上にもう一枚ゴム手を重ねてはめ、さらにその上に綿の手袋を着用する。
 眼を守るために解剖用ゴーグル(スキー用と酷似)を装着する。防菌専門のキャップもかぶる。
 感染予防はどれだけ注意しても、し過ぎることはない。
 むしろ、どんなに注意しても感染してしまう場合がある。肝炎、結核、エイズ……。毎年どこかの病院で解剖医が感染症に罹患。緊急治療室に運ばれる医師がいるのだ”(40p)
自身の身にも危険がおよぶ仕事だとは知りませんでした。

『第二章 遺体の無念を晴らすため、二四時間体制』では、海上で発見された水死体が川で亡くなったのか海で亡くなったのか調べるために、体内のプランクトンまで調べたとあります。
“県警の科学捜査研究所に持ち込んでプランクトンの検出をお願いした。するとどうだろう、海水中のプランクトンは認められず、淡水中のプランクトンのみが検出されたのだ。
 このことは(死体が)川に投げ込まれた後、海に流れ出て四〇キロ沖合まで漂流したことを裏付けていた。
 人は生存中に水中で水を飲むと、プランクトンが血液循環によってさまざまな臓器に入る”(68p)
「水が肺に入る」と耳学問で知っていましたが、「プランクトンが血液循環によってさまざまな臓器に入る」とは驚きです。

『第三章 実録 私が解剖した変死体と刑事捜査』はページ数が一番長く、かつ興味深い内容ですが、生々しいので引用は避けます。

『第四章 現代社会に死と向き合う』では、“世相を映す犯罪現場でもグローバル化が進んでいる”と嘆いています。
“世はグローバル化の時代といわれて久しいが、世相を映す犯罪現場、解剖の現場でもそれはまったく変わらない。(略)
 そのため、骨が見つかれば、以前は「人間の骨か、獣骨か」を見極めればよかったが、今では「人骨か獣骨か、人骨ならば国籍、人種は何か」まで鑑定範囲を広げなければならなくなっている。
 そのため私自身も、まず動物の骨を研究するために、上野の国立科学博物館によく通ったものだった”(177p)

最も問題なのは、『第五章 日本では見逃されている殺人事件がある』でしょう。
“全国各地の異状死体、解剖されるのはたった8パーセント”(210p)と述べたうえで、次のように提案されています。
“人ひとりの死因を明らかにすることは、実はその人個人の人権に、大きく関わってくる問題でもある。
 そのためにも、監察医務制度、特に死体を検査する専門医や解剖制度が全国的に早急に整備されるべきではないだろうか。
 本書の出版も、実はそこに目的がある”(216p)

以前に読んだ『死因不明社会』(著者:海道尊)という本でも同じ主張が展開されていました。

著者が書いている“死因を十分に調べる解剖が行われていない日本”は大変問題があると感じました。

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三澤 章吾(みさわ・しょうご)
筑波大学名誉教授、植草学園大学客員教授。医師。医学博士。
第17期日本学術会議会員。
昭和13年1月東京神田生まれ。
昭和38年東京医科大学医学部卒業、昭和43年同大学大学院医学研究科(法医学)修了。
同大学助手(法医学)、東京女子医科大学助手(病理学)、東京大学医学部助手(法医学)を経て、昭和47年杏林大学医学部助教授(法医学)、昭和51年4月筑波大学社会医学系法医学教授に就任。
茨城県警察や水戸地方検察庁の依頼により多数の司法解剖に従事。
平成13年3月同大学を定年退職後、東京都監察医務院 院長として勤務(3年間)。平成5年より3年間日本法医学学会理事長。
監察医が活躍するテレビ番組などで監察医指導を行なっている。

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