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2016年02月20日08:35

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消滅 [読書日記563]

題名:消滅 ――VANISHING POINT[読書日記563]
著者:恩田 陸(おんだ・りく)
出版:中央公論新社
価格:1800円+税(2015年9月 初版発行)
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面白い小説を読みました。
恩田陸さんの『消滅』です。

舞台は日本の某国際空港から始まります。
巨大台風が接近し、通信障害が発生した空港、ここで何が起きるのか……。
ネタばれを避けるために、これ以上書けないのが残念です。

さて、この小説では構成のすばらしさもさることながら、ディテールで現実味を持たせる書き方にも感心しました。
(一流の作家に対して、偉そうな言い方ですが)

感心したディテールをいくつか紹介します(これならネタばれにならないので)。
「⇒」は私の感想・補足。

1.
空港で降り立った外国人の中に、WEB上の暴露サイト「ゴートゥヘルリークス」を立ちあげた人物がいる(79p)
⇒誰も知っている「ウィキリークス」や、エドワード・スノーデン事件を連想させます。

2.
登場人物がミドリとナオコという名前の猫を飼っている。
この部分は本編から引用します。
“「猫にしては人間臭い名前ね」
 「はい。ミドリが二代目でナオコは四代目です」
  話を聞いていた面々は目をぱちくりさせた。
 「え? どういう意味?」
 「女房が村上春樹のファンで」
 「あ、『ノルウェイの森』か」”(137p)
⇒絶大な人気を誇る村上春樹さんの、しかも最も知られている小説を挙げるところが流石です。

3.
登場人物の娘がアイドルユニットCOS11に入りたがっている。
⇒ちなみに「COS11はここ数年では最も入るのが難しいと言われるアイドルユニットで、中央線沿線に住む十代の女子であることが応募条件のひとつ」(171p)という解説も付いています。

4.
登場人物が品川駅のモビーディック・コーヒー(略称「モビデ」)に行ったことがある。(194p)
⇒「スターバックス・コーヒー」の名前の由来を知っている人は、ニヤリとする命名です。

こういった、描き込まれた細部に支えられて、全体も単なる娯楽に終わらない(読み終わったあと、人生や人間について考えさせる)小説を書き上げる。
恩田陸さんの力量に感じ入った一冊でした。

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恩田 陸(おんだ・りく)
1964年宮城県生まれ。早稲田大学卒業。
92年、日本ファンタジーノベル大賞最終候補作『六番目の小夜子』でデビュー。
以降、ミステリ、SF、ホラーなど幅広い分野で精力的に執筆活動を行なっている。
2005年、『夜のピクニック』で本屋大賞、吉川英治文学新人賞を受賞。
06年『ユージニア』で日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。
07年『中庭の出来事』で山本周五郎賞を受賞。近著にに『夜の底は柔らかな幻』『雪月花黙示録』『EPITAPH東京』『ブラック・ベルベット』がある。

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