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2015年07月03日07:32

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「ラブ&ピース」

園子温がアメリカでホームレスをしていた若い頃に構想した作品との事だ。
「冷たい熱帯魚」「恋の罪」などを撮った監督の原点が、こんなファンタジー作品だったというのはちょっと意外だった。

鈴木良一(長谷川博己)はミュージシャンを目指していたが断念、機会部品を作る会社で働いていた。
音楽以外はまったくダメ男の鈴木は、会社でも上司、同僚から馬鹿にされる存在で、唯一彼の事を見つめているのが寺島(麻生久美子)だった。
ある日鈴木は、デパートの屋上で小さいミドリガメを買う。
彼は亀を「ピカドン」と名付け、諦めきれないミュージシャンへの夢を日々語っていた。
亀に愛着を持った鈴木は会社にまで連れてくるのだが、同僚にその亀が見つかってしまう。
馬鹿にされ批難される鈴木、しかも憧れの寺島にまで会社に亀を連れてくることを否定されてしまう。
絶望した鈴木は、愛する亀をトイレに流してしまった。

トイレに流された亀は排水口を彷徨い、やがて地下に住む不思議な老人(西田敏行)の元にたどり着く。
この老人は捨てられたペットや壊れたおもちゃと一緒に暮らしていた。
老人が作る不思議な飴をなめると、動物もおもちゃも人語を話すようになる。
亀も飴をもらってなめるのだが、その飴は老人の手違いにより人語を話す飴ではなく願いを叶える飴だった。
亀は鈴木のビッグになる願いを次々と叶え、体を大きくしていく。

一方鈴木は、亀のいない失意の日々を過ごしていたが、ふとしたきっかけでバンドのボーカルとしてデビューすることになる。
亀を失った思いをつづった歌は大ヒットし、鈴木は一躍スターダムへとのし上がっていく。

どんどんスターになる鈴木と、鈴木の願いをかなえようとする健気な亀の物語だ。
亀がたどり着く不思議な老人の住む空間は、非常にファンタジックである。
亀やおもちゃたちの動きは、CG全盛のこの時代から考えるとちょっとぎこちないようにも見えるが、あまりリアルに動かしてしまうとファンタジー感が薄れ生々しくなってしまうのだろう。
ミルク飲み人形のマリア、ネコのぬいぐるみのスネコなど、おもちゃたちのキャラクターもきちんと確立されているので、ストーリーに一本筋が通っている。
特にスネコのセリフは、ファンタジー作品の中でも現実の厳しさを表現しており、作品全体のバランスを調える重要な役割を担っている。

前半に伏線を張り、起承転結がきちんと別れ、ラストも希望を持たせる終わり方だった。
映画としては、ある意味教科書通りの作りとなっている。
破天荒と思われる園子温だが、原点ではやはり基本通りの映画を構想していた。
天才と言えども、やはり基礎、基本が重要なのだと思わせる作品であった。


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