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2015年04月25日08:23

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資本主義の終焉と歴史の危機[読書日記520]

題 名:資本主義の終焉と歴史の危機
著 者:水野 和夫(みずの・かずお)
発 行:集英社新書
価 格:740円+税(2014年12月 第14刷発行)
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『2015新書大賞 第2位』の本です。
ベストセラーは敬遠しがちなのですが、立ち読みして内容(主張)が『グローバリズムという病』と重なるので、手に取りました。

この本が成功した理由の一つは、資本主義を「中心」(先進国)と「周辺」(途上国)という判りやすい言葉を使って説明したことでしょう。

著者の主張は「はじめに」で明かされています。
"はじめに――資本主義が死ぬとき
資本主義の死期が近づいているのではないか。
その理由は本書全体を通して明らかにしていくつもりですが、端的に言うならば、もはや地球上のどこにもフロンティアが残されていないからです"(3p)

今までは、資本主義の「中心」(先進国)が「周辺」(途上国)から安い原料を仕入れ、あるいは「周辺」各国の安い人件費で製造して、差益で儲けてきました。
しかし、世界各国が「先進国」化しつつある今、その仕組みが維持できななくなっている、という論旨です。判りやすいですね。

目次を紹介します。
 はじめに
 第一章 資本主義の延命策でかえって苦しむアメリカ
 第二章 新興国の近代化がもたらすパラドックス
 第三章 日本の未来をつくる脱成長モデル
 第四章 西欧の終焉
 第五章 資本主義はいかにして終わるのか
 おわりに

「第一章 資本主義の延命策でかえって苦しむアメリカ」では、"アメリカによる、IT(情報技術)革新と金融自由化は、資本主義の延命策だった" という、目からウロコが落ちる指摘があります。
引用します。
"本来ならば、「地理的・物的空間」での利潤低下に直面した1970年代半ばの段階で、先進各国は資本主義に代わる新たなシステムを模索すべきでした。
しかし、アメリカは、近代システムに代わる新たなシステムを構築するのではなく、別の「空間」を生み出すことで資本主義の延命を図りました。すなわち、「電子・金融空間」に利潤のチャンスを見つけ、「金融帝国」化していくという道でした。
「電子・金融空間」とは、IT(情報技術)と金融自由化が結合してつくられる空間のことを言います"(26p)

第一章に『グローバリズムという病』と主張を同じくする指摘があります。
"グローバリゼーションをヒト・モノ・カネの国境を自由に越えるプロセスであると捉えている限り、それはグローバリゼーション推進論者や礼賛論者の思うつぼです。
こう定義すれば、「周辺」に置かれている国や地域、あるいはその国の企業が、グローバリゼーションに乗り遅れてはいけない(略)
といった強迫観念に駆られ、グローバリゼーション政策に邁進することになるのです"(41p)

以下、第二章〜第五章から、斬新な指摘を引用します。
「第二章 新興国の近代化がもたらすパラドックス」では、日本について次のように述べています。
"(資本主義とは異なるシステムを構築した国になる)その可能性をもっとも秘めている国が近代のピークを極めて最先端を走る日本なのです。
しかし、日本は第三の矢である「成長戦略」をもっとも重視するアベノミクスに固執している限り、残念ながらそのチャンスを逃すことになりかねません"(101p)

「第三章 日本の未来をつくる脱成長モデル」では、『自由化』という言葉のまやかしを指摘しています。
"「自由化」の正体
金融の自由化や貿易の自由化はグローバリゼーション礼賛者がよく言う「ウィン・ウィン」の関係にあるわけではありません。
元来、自由貿易からして貿易がお互いに利益をもたらすというのはごく限られた条件でしか成立しないのです"(111p)

「第四章 西欧の終焉」では、日本が豊かな生活を享受できる恵まれた15%に入っていることを指摘しています。
"ヨーロッパのためのグローバリゼーションの時代である1870年代から2001年までは、地球の全人口のうちの約15%が豊かな生活を享受することができました。(略)
この15%は、当然アメリカや日本も含まれています"(166p)

「第五章 資本主義はいかにして終わるのか」では、リーマン・ショックで炙り出された金融工学のまやかしや、安い電力で資本主義を延命させようとした原子力発電も、三・一一で未来にまで災厄を残した、と言い切ります。
"九・一五のリーマン・ショックは、金融工学によってまやかしの「周辺」をつくり出し、信用力の低い人々の未来を奪いました。
リスクの高い新技術によって低価格の資源を生み出そうとした原子力発電も、三・一一で、福島の人々の未来を奪っただけでなく、数万年後の未来にまで放射能という災厄を残してしまいました"(178p)

著者が最も主張したいと思った言葉を第五章から引用します。
"誕生時から過剰利潤を求めた資本主義は、欠陥のある仕組みだったとそろそろ認めるほうがいいのではないでしょうか。
これまで、ダンテやシェイクスピア、あるいはアダム・スミス、マルクス、ケインズといった偉大な思想家たちがその欠陥を是正しようと命がけでたたかってきたから、資本主義は八世紀にわたって支持され、先進国に限れば豊かな社会を築いてきたのです"(207p)

資本主義がどうなるにしろ、日本のこれからの舵取りの指針になる指摘が多くありました。

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水野 和夫(みずの・かずお)
1953年、愛知県生まれ。
日本大学国際関係学部教授。
埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。博士(経済学)。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券チームエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)を歴任。
主な著作に『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』(日本経済新聞出版社)、『超マクロ展望 世界経済の真実』(萱野稔人氏との共著・集英社新書)など。

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