mixiユーザー(id:19073951)

2015年02月21日23:31

1354 view

「革新的」で「確信犯的」そして「核心」に迫るハーモニー

ここんとこ,クラシックの曲を弾くときも,ポピュラーのようにコードを分析して弾くことを心がけている。
単に楽譜通りに弾くのではなく,「何故このハーモニーは何でこんなに綺麗に響くのだろう?」というところを,きちんとコード理論として把握しておきたいから。

特に,ドビュッシーやラヴェルの曲は,和声学ではとらえることのできないハーモニーや,掟破りの禁則処理とするような和声が多数出てくる。
ルールを破るところに美しいハーモニーが存在するというのも,当時の常識にとらわれない「革新的で確信犯的」なドビュッシーやラヴェルっぽくっていい。

で,ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」なのだが,驚くくらいモダンジャズや現代のポピュラー音楽に近い和声がたくさん出てくる。

たとえば,27小節目の解決しない9度(テンション)の連続。これはもろ,洒落たモダンジャズの響き。
音のサンプル→http://www.piano-c.com/pianoChord_C9.html
この2:03〜2:11あたり→https://www.youtube.com/watch?v=U0uK_AFwF0g

それから,ハーフディミニッシュ。これは曲の随所に用いられるが,マイナーに短7度,減5度(m7-5)。キーがCなら,「ド・ミ♭・ソ♭,シ♭」となる,不安定な響き。ショパンがよく使う減7(ディミニッシュ7th)に比較し,7度は減さず5度のみ減ずるからハーフディミニッシュ。その転回形が,ワーグナーの「トリスタン和音」。複雑な感情を表現するために用いられたその和音は,世に出た当時は,まがまがしい理解不能な響きとして,現代音楽の先駆けとしてとらえられたそうだが,今では当然のようにポップスでも用いられている。
その響きは,この曲の,長調でありながら,どこかアンニュイな雰囲気を醸し出している。
音のサンプル→http://www.piano-c.com/pianoChord_Cmi7-5.html

秀逸なのは,中間部の末尾57小節目〜テーマ再現部冒頭の60小節目にかけての,トニック(G7)→サブドミナント繋留4度(Csus4)→4度の解決(C)→サブドミナントマイナー(Cm)→ドミナントのオルタードテンション(D7♭13,この13thをフラットとしているのがイカしてる)→ドミナントの繋留4度(Dsus4)→4度の解決(D7)→トニックのマイナー(Gm)→トニック(G)
へと至る流れ。
この4:30〜4:40あたり→https://www.youtube.com/watch?v=U0uK_AFwF0g

サブドミナントマイナーやオルタードテンション,メジャーとマイナーの入れ替えによる,長調と短調を行き交う微妙な感情の揺れ,そして現代のジャズ,ポピュラーでも十分通用する繊細で複雑なコード進行。
和声学ではとらえきれない,あるいはルール違反の部分にこそ,ハッとする一瞬のハーモニーのきらめきと美しさが存在するように思える。

モダンジャズが登場する50年前に,時代を先取りしていたドビュッシーもラヴェルも,未知のハーモニーを探す旅に出ていたのだ。クラシックの和声学にとらわれない「革新的」で「確信犯的」,そして音楽の快楽の「核心」に迫るハーモニー。そこに「進化」そして「深化」していく「音楽の系譜」を垣間見たような気がする。

6 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2015年02月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728