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2015年02月20日19:05
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「ジヴェルニーの食卓 – Une table de Giverny –」／原田マハ
絵画に纏わる作品を書かせたら､
やはり､原田さんに勝る作家は居ないなぁ〜〜
以前､梨木さんの作品を読んで抽象画のような作品だなと書いたけれど､
この本に収められた中編４編は､
そのいずれもが､水彩画か素描､あるいはパステル画のような印象を受ける､
美しい作品である｡
正に､絵を描くように文章を書く作家！原田マハの真骨頂！
この前に読んだ｢ユニコーン ジョルジュ・サンドの遺言｣で､
ちょっぴり期待をハズされた不満はイッキに解消された｡
キュレーター出身の作家が､
その深い知識を土台に創りあげた､
４人の画家の､人生のきらめく一瞬を切り取ったような美しい物語｡
しばし､フランスの小さな町｢シミエ｣(ｺｰﾄ･ﾀﾞｼﾞｭｰﾙ)､｢パリ｣､｢ジヴェルニー｣(ﾉﾙﾏﾝﾃﾞｨｰ)
に心はワープし､その“時”に耽溺してしまった｡
マティス､ドガ､セザンヌ､モネ、４人の画家を､
その傍らに居て､彼らの素顔を見つめ続けた４人の女性が語る｡
彼女らの言葉を通すと､
名画に付随する名前！としてしか知らなかった彼らは､
この作品の中で､人間として生きて息をし､存在する｡
私の､原田作品ベスト３の中に入る､大好きな作品だった｡
うつくしい墓 – La belle tombe –
＜マティス＞
語るのは､彼が晩年､コート･ダジュールの｢オテル･レジナ｣に住んだ折､
仕えていた小間使いのマリア｡
参考までに､シミエの｢オテル･レジナ｣
そのエントランス｡
かつて超高級ホテルだったここは､後に超高級アパルトマンとなり､
今も､超お金持ちのみなさんのお住まいになっているとのこと｡
出掛けて行っても､外観を眺めることしかできないらしい｡
マリアは当初｢マグノリアのマダム｣と呼ばれる富豪夫人の小間使いだったのが､
お使いでマティス宅にマグノリアの花を届けに行き､
飾るように言われ選んだ花瓶と飾り方が､かつてマティスが描いた絵(下)を思わせ､
マティスに気に入られ､彼の小間使いとなったのだ｡
そして傍らで彼の最後の日々の一時一時を大切に見つめ守り続ける｡
そんな中､
マティスが､かつてモデルで修道女になった女性に乞われ創った､
ヴァンスのロザリオ礼拝堂…
は､マティスが自身の墓のつもりで創ったらしいと知り､
彼の｢死｣がもう遠くないものと意識しておびえ､
彼という芸術家への恋愛を越えた熱い｢愛｣を初めて意識する｡
最後の大作としてマティスが挑んでいたのが､
アメリカ、ハドソン渓谷沿いの町スリーピーホロウの、
ﾛｯｸﾌｪﾗｰ邸内礼拝堂（ﾕﾆｵﾝ教会）のバラ窓｡
(ちなみに壁の窓のｽﾃﾝﾄﾞｸﾞﾗｽはｼｬｶﾞｰﾙの作品とか！ 行ってみたい！！！）
その最後の日々は､彼に､いや彼の芸術に心を占領されてしまった人たちの
隅々まではりめぐらされた気遣いの中で､過ぎていった｡
｢生きる喜び｣という作品でマティスに魅了されてしまったピカソとの親交の描写がイイ！
｢ピカソが津波ならマティスは水平線｡
マティスが羊雲ならピカソは入道雲｡
けれど海に満ちる輝き､空に溢れる自由は､ドチラの芸術家にも等しいものでした｡｣
と言った､マティスの助手リディアの言葉は､マハさんの言葉かな？
エトワール – L’etoile –
＜ドガ＞
語るのは､アメリカ人でフランスに留学し､
印象派として名を成すと同時に､印象派絵画をアメリカに紹介した､
女流画家メアリー･カサット
この｢コルティエ婦人の肖像｣で､
ドガに､｢私と同じ感性を持った画家がいる｡｣と言わしめた画家である｡
その彼女が､一時ドガとの親交を断った時があった｡
ドガが､踊り子の少女｢マリー･ヴァン･ゴーテム｣をモデルに､
ワックス製の像を創っている現場に居合わせたことが､原因だった｡
この像は､人毛のかつらに白いリボン…
あまりにリアルで､生々しく､少女の魂を閉じこめてしまったような
禍々しいほどの写実性のあるものだった｡
そこまでの写実性を少女モデルに要求するドガを非難するメアリーに､
ドガは言った｡
｢何を甘い事を…
彼女たちは、私たちなんだ。
このシステムは、私たちが属している美術の世界とよく似ているんだ。
芸術家とパトロン。 私たちもまた、パトロンの気を引くために、彼らの共感を得るために、
日々、絵を描いているじゃないか。
パトロンに見出されなければ、生きていけないじゃないか。
この世界の星(＝エトワール)になりたいと切望しているじゃないか。
君も、私も。 メアリー、私たちは、彼女たちなんだよ。｣
当時酷評されたこの作品は､ドガの死後にブロンズに鋳造され、
現在､約30の像が､欧米の美術館に所蔵されている。
そして､その酷評を､
ワシントン・ナショナル・ギャラリーの公式カタログは次のように書いている。
・・ そのレアリスムに加えて、ドガは彫像に本物のチュチュとリボンを付けために、
・・ ぎょっとさせるものがあった。
・・ アカデミー派の、多くは古典に主題を得た裸婦像の
・・ なめらかな仕上げに慣れた批評家たちは、
・・ 「小さいバレリーナ」のレアリスムをグロテスクと評した｡
当時のバレリーナがそんな立場にあったことに驚きつつ､
画家である自らに重ねて､新たな芸術を求める彼の壮絶な芸術への姿勢が伝わった｡
この像｡ もちろんオリジナルの物！ 観てみたいなぁ〜〜
ところで､モデルとなったマリーは､
残念ながら､エトワールにはなれず消えていったらしいが､
その妹シャルロット(写真)は､プリマとして舞台に輝いたとのことである｡
タンギー爺さん – Le Pere Tanguy –
＜セザンヌ＞
語るのは､
パリの片隅で画材屋兼画廊を営んでいたタンギー親父の娘｡
セザンヌへ､手紙で絵の具のつけを請求するという形で､
タンギー爺さんと､当時､店に入り浸った画家たちとの交流を描く｡
まず､タンギー爺さん！と言って思い浮かぶ絵は､ゴッホの３作品｡
爺さんが､いつかはきっと時代が彼らを認めると信じ続けた､
セザンヌたちの絵は､今､確かに評価され､何億という値で取引されている｡
トランプをする人物
リンゴの静物画
サン･ヴィクトワール山
ところで､
絵の具は､もとは注射器に入れて使い､
なくなると画材屋で充填するというものだったのが､
押し出し式チューブが発明されたことで､戸外で描け､
絵画は飛躍的に発展したとか…
ここで知った豆知識である｡
ジヴェルニーの食卓 – Une table de Giverny –
タイトルとなった作品！
＜モネ＞
語るのは､後妻アリスの連れ子ブランシュ｡
元々アリスは､画家モネのパトロンだった銀行家エルネスト･オシュデの妻で､
ブランシュはオシュデの娘だった｡
彼らの出逢いは､エルネスト家のモンジュロンの別荘に､モネが招かれて､
注文された画を描きに来た時｡
そこで､モネは､心の高揚を写し取ったような夏の風景を描いた｡
七面鳥
モンジュロンの池
エルネストが破産し逐電し､また､モネの先妻が病死したことで､
結婚したモネとアリス… そしてその連れ子達…
様々な出来事を経てこのジヴェルニーに落ち着き､
やっと､理想の楽園を創りあげるまでを振り返り､
今､モネの晩年を見守るブランシュ｡
一時､白内障で光を失い絶望したモネが､手術の成功で､
改めて光を見出し､光の中に居る｡
今日も彼女は､彼のために､母アリスのレシピで､その食卓を埋めるのだ｡
この本の読後レポを書こうとして､
中に出てくる絵画のうち数点挙げようと､ネットの世界を巡っていたら､
４人の画家の逸話が出てくる出てくる…
ここまで書くのに丸２日を要してしまった｡
絵画の世界は､本当〜〜に深い！
シミエの｢オテル･レジナ｣､ヴァンスの｢ロザリオ礼拝堂｣､
スリーピーホロウの｢ﾛｯｸﾌｪﾗｰ邸内礼拝堂｣（ﾕﾆｵﾝ教会）
ジヴェルニーのモネの家とお庭…etc
絵画と縁の深い土地を巡って歩いたら楽しいだろうなぁ〜〜
この作品に出逢ったお蔭で､
様々な絵画と出逢い､また､フランスの､絵画に纏わる名所に心を遊ばせ…
２日間､素敵な時間を過ごさせてもらった｡
原田マハさんに感謝！
ところで､
表紙になった絵を挙げようと捜したけれど､
モネの｢睡蓮｣
あまりに多過ぎて､ずい分見比べたけれど､作品の特定ができず…
Claude Monet Ｌｅｓ Nympheas, La Deux saulles
どなたか､もし､特定できたら､お教えください｡
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