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2015年01月03日09:59

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ローマ亡き後の地中海世界[読書日記504]

題名:ローマ亡き後の地中海世界 海賊、そして海軍
著者:塩野 七生(しおの・ななみ)
出版:新潮文庫
価格:1巻590円+税(平成26年8月発行)
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お正月休みを使って、全四巻の『ローマ亡き後の地中海世界』を読みました。
塩野作品は、その世界に引き込まれれば一気に読めるだけに、この期間で四冊読めたと思います。

歴史の舞台はイタリア半島を中心にした地中海世界。時代は西ローマ帝国が滅亡(476年)し、マホメッドが誕生した(570年)頃から始まり、海賊を海軍に登用していたトルコ自身が海賊行為を禁じた1740年までを描いています。
当時、世界の貿易の中心は地中海で、それゆえに各国が干渉しあった舞台が地中海だったようです。
さらに、重要なのは宗教。イスラム教の台頭と、彼らの異教徒狩りを兼ねた海賊行為が全編を支配しています。

読みながら驚いたことを挙げます。
1.当時のキリスト教国が、想像以上にイスラム教国から被害を受けていたこと
2.イスラム教の開祖マホメッドの布教開始が613年と想像より遅かったこと
3.ルネサンス文化が華麗に花開いていた同時代に、奴隷にされ拉致され、アフリカで死ぬまで働かせられたキリスト教徒が数百万人もいたこと
4.アフリカの地のキリスト教徒(奴隷)救出のための活動が「キリスト教徒救出修道会」「キリスト教徒救出騎士団」として、数百年も続いたこと
5.そんな国際情勢にあっても、ヴェネツィア共和国は独自の諜報網で、貿易立国として君臨していたこと

通読して思うのは、塩野節というか、彼女独特のウィットあるコメントが作品を引き立たせています。
その点が歴史を列記しただけの平凡な作品と異なる点でしょう。

各巻から一つずつ「塩野七生節」をピックアップしました。
<一巻>から
"平和とは、求め祈っていただけでは実現しない。人間性にとってはまことに残念なことだが、誰かがはっきりと、乱そうものならタダでは置かない、と言明し、言っただけでなく実行して初めて現実化するのである"(79p)

<二巻>から
"フランスの王が海賊一掃のため(サントロペへ)の軍派遣を決断したのは、フランスからローマへ向っていたクリュニー修道院の院長の一行が、その途中にあるサントロペで海賊に襲われ、身ぐるみはがされるという不祥事が起ったからで(略)
被害者がVIPだと事件になり、それで初めて決定的な行動に出るのは、古今東西変わりがない"(30p)

<三巻>から
"存命中から「大王」とか「大帝」とかの敬称づきで呼ばれる人は、例外なく、他国の領土に進攻することで自国の領土の拡大に成功した人である。
内政面でいかに重要な業績をあげても、「賢帝」とは呼ばれても「大帝」とは呼ばれない。人間とは所詮、勝ってこそ胸をはれる動物なのだろう"(147p)

<四巻>から
"人間世界を考えれば、残念なことではある。だが、戦争の熱を冷ますのは、平和を求める人々の声ではなく、ミもフタもない言い方をすれば、カネの流れが止まったときではないか、と思ったりする"(266p)

教科書では数ページだけの記述を濃密に描いた歴史を堪能しました。

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塩野 七生(しおの・ななみ)
1937年7月7日、東京生れ。学習院大学文学部哲学科卒業後、イタリアに遊学。
'68年に執筆活動を開始し、「ルネサンスの女たち」を「中央公論」に発表。
初めての書下ろし長編『チェザーレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』により1970年度毎日出版文化賞を受賞。
この年からイタリアに住む。'82年『海の都の物語』によりサントリー学芸賞。
'83年、菊池寛賞。'92年より、ローマ帝国興亡の歴史を描く「ローマ人の物語」にとりくむ(2006年に完結)。
'93年、『ローマ人の物語1』により新潮学芸賞。'99年、司馬遼太郎賞。2002年、イタリア政府より国家功労勲章を授与される。
'07年、文化功労者に選ばれる。'08-09年、『ローマ亡き後の地中海世界』(上・下)を刊行。
'11年「十字軍物語」シリーズ全4冊完結。'13年、『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』(上・下)を刊行。
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