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2024年01月07日22:57

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映画「ファースト・カウ」

今年の初劇場映画は、ケリー・ライカート監督の「ファースト・カウ」。1800年代のアメリカの西部開拓時代のオレゴンを舞台にした物語。オレゴン州は、アメリカの西海岸にあり、北はワシントン州と、南はカリフォルニア州と接している。中部ミズーリを出発して、カンザス、ネブラスカ、ワイオミング、アイダホを経由してオレゴンに至る開拓の道、「オレゴントレイル」の終着地だ。

 鬱蒼と茂る原生林の残るオレゴンの森の中を、罠猟師たちの一団が進む。森に住む獣たちと罠を仕掛けて捕らえ、その毛皮を仲買人に売って収入を得る男たちだ。このころ、ヨーロッパの上流階級では毛皮を身につけることが大流行。猟師たちも「柔らかい金」と呼んで、荒稼ぎしていた。
 その中で料理人として雇われていたのがクッキーことフィゴヴィッツ。ある日、林の中でロシア人に追われて逃げている中国人移民のキング・ルーに出会い、自分のテントに翌朝まで匿ってやる。猟師たちは、毛皮の取引所に着き、毛皮を売るとまた南部に向かって漁を続けていった。取引所のある砦に残ったクッキーは、そこでキング・ルーと再会する。
 クッキーは東部メリーランドで生まれたが、両親に早く死なれ、天涯孤独の身。ボストンでパン屋の見習いをしたこともあって、料理全般がうまかった。いつかはサンフランシスコでパン屋かホテルを開きたいという夢があった。キング・ルーは、中国を出て船でアフリカ、ヨーロッパにも立ち寄り、新天地のアメリカにたどり着いた。なんでもありのこの地で一旗揚げるつもりだ。二人の共同生活が始まる。
 ちょうどこの頃、この西部の砦に、この地初めての牝牛が連れて来られた。イギリス生まれの毛皮の仲買人が紅茶に入れるミルクが恋しくて買い入れたのだ。集落の外れの草地で雌牛は飼われていた。
 これに目をつけたのが、キング・ルーだった。夜中にこっそりミルクを絞ってもわかるまい。それを材料においしいお菓子でも作って売れば、大金持ちになれるかもしれない。
 二人は夜中に仲買人の敷地の外れに繋がれている牛の所に行き、乳しぼりをして帰って来る。さっそくミルクを入れた生地を揚げ、ドーナッツのような菓子を作る。生地に甘味はないが、蜂蜜を垂らすとなかなかイケる。
 彼らの狙いは当たり、市場に持ち込むとたちまち行列のできる人気商品となる。そして、ついに仲買人の目にも留まる。かれは一口食べると、まるでロンドンの味だと大感激。今度は、自宅での客人のもてなし用に、地元の野生のブルーベリーを使って果物入りの焼き菓子クラフティを作って持ってこいという。
 キング・ルーは、「仲買人は舌が肥えている。材料にミルクを使っていると気づくかも。そうなったら一巻の終わりだ」というが、クッキーも「でも、この状況では断れない。断ったら、帰って怪しまれてしまう」といい、危ない橋を渡ることになる・・・。


 ケリー・ライカート監督の映画が、こうして大々的に劇場公開されるのは初めて。
2021年に、いくつかのミニシアターで「オールド・ジョイ」「グラス・オブ・シー」「ウェンディー・アンド・ルーシー」「ミークス・カットオフ」の4本が特集上映された。何かすごいらしいという評判で見に行った。たしかに、これまで見てきたアメリカ映画とは違う、まさにミニシアター向きの映画だった。この4本のうち、「ミークス・カットオフ」は、西部の開拓時代の苦難の旅を描いたものだったが、今回の「ファースト・カウ」は、その系譜を継ぐ映画であると言える。

 昔ながらの西部劇と違って、ヒーローはいない。何とか一山当てようと西部にやってきた訳ありの人々。そこにはイギリス人やロシア人もいたし、中国人もいた。また、当然、先住民であるネイティブ・アメリカンたちがいた。彼らのうちの一部は、こうした毛皮取引の行われる場所にも住みついていて、金持ちの仲買人の使用人として働いたりもしていた。
 中国人のルーと白人のクッキーの関係は、ほぼ対等だ。おそらく、ルーの方がいろいろと体験も豊富なので。クッキーは起業家としてのルーに一目置いていただろう。また、ルーもクッキーが命の恩人であるというだけでなく、その料理の腕を高く評価していた。
 ネイティブ・アメリカンの人々の描き方もステレオタイプではなく、彼らの日常生活、自然の草木を材料とした衣服や食生活、シャーマンのような存在も垣間見せる。彼らも毛皮猟の恩恵に与っていたので、経済活動も共有していた。
 長い開拓の歴史の中には、こんなこともあったのかもしれないなと思わせる。

 なお、この映画でクッキーを演じるジョン・マガロは、こんど4月に公開予定の『パスト・ライブス」にも出ています。全然違うテイストのこちらの映画も楽しみ。


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