昔ながらの筒井康隆の手法を使いながら、新しい時代の意識へと転換がはかられている。
『羆』
クマとの軋轢の問題は今年よく耳にする。
これは三毛別の人食い羆の事件を思い出しながら書いたのか。実際現場にいたら、このような状況なのかも知れない。
作者らしい描写だ。
『お時さん』
何とも幻想的な状況だ。怪奇であるかもしれない。怪異であったのかどうかは書かれておらず、語り手の妄想なのかもしれない。
何かしら、思い出を反芻してみると、事実とは違って思い起すものかも知れない。
『楽屋控』
作者の実体験が反映されているのだろうか?
役者の世界と小説家の世界を行き来して、業界の習慣の違いに戸惑っているのか。最後は自棄糞だな。
『夢工房』
何だか小松左京の『サマジイ革命』か田辺聖子の『お聖どんアドベンチャー』を思い出してしまう。
年寄りと云ってもお盛んなんだなあ。
「相撲取りになったのは何も男子に抱きつきたかったからではない。」← 冗談にならない気がする。
『美食禍』
如何にもな筒井SFだ。
己の欲望を充足させることから、他社を巻き込んだ実験へと暴走する悪乗りは、作者の得意技だ。しかも、科学的な屁理屈が背骨を通っている。
『夜は更けゆく』
嘗ての『あの二人変』を思い出してしまう雰囲気を纏っている。前の大戦とここ数年の病禍とは、似たような状況を招いているかも知れない。
冴子の、そこはかとない色気と純真さが心を魅き付ける。
『お咲の人生』
何とも物悲しい話だろう。
少年期の男の子の心理と、古い昭和前半の山村の生活環境が描かれる。「ぼく」の心の移り変わりが、何かしら真実を語っている気がする。忘れ去られつつある日本の情景が横たわっている。
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