先週、よどがわダイバーシティ映画祭で見た映画。今夏、公開されていたのに全くアンテナに引っかかっておらず、見落としていた。これがとてもいい映画で金馬奨三冠というのも納得であった(内容と結末に触れています)。
基隆のアパートに、老婦人シウユーとその孫ヨウユーと暮らすジェンイー。9歳のヨウユーは亡くなった同性パートナー、リーウェイの忘れ形見だった。ピアノ教師の傍ら、ふたりの面倒を見ているジェンイー。三人の穏やかな日々が続くかに見えた。
突然、場面が変わって法廷。ジェンイーは違法薬物所持と殺人の容疑で起訴されていた。一体、何があったのか?
ストーリーは、過去と現在を行き来しつつ、何があったのかを少しずつ明かしていく。過去のシーンは■、裁判所のシーンは□をつけます。
■冒頭の仲良く暮らしていた日から数ヶ月後、病の床にあったシウユーは亡くなっていた。上海から駆けつけてきたシウユーの次男リーガンは、ジェンイーがヨウユーを養子にしていると知って不快感を覚える。ジェンイーが財産目当てにヨウユーを養子にし、母のシウユーを殺害したのではないかと疑い、警察に訴える。捜査が進むにつれて、その疑いを裏付けるようなジェンイーに不利な証拠が次々に見つかる。
■シウユーの体内からは高濃度の薬物が検出。ジェンイーの家宅捜索から薬物は見つからなかったが、シウユーの死の直前にジェンイーはヨウユーと養子縁組をしており、家屋の権利はヨウユーに名義変更されていた。
また、ジェンイーの携帯の履歴から、彼が薬物売買の前科のある男エリックと出会い系アプリを通じて会っていたことも明らかになる。
■警察の尋問で「パートナーが死んだのに、なぜ、彼の家を出て行かずに、その家族と暮らし続けているのか?」と問われ、「パートナーの家族と一緒に暮らし続けることの何がおかしい。自分が女性だったとしても、同じことを聞きますか?」と問い返すジェンイー。
また、「パートナーの家族と一緒に暮らしてるくせに、ゲイってのは出会い系で新しい相手と会うんだな」といった嫌がらせも言われる。
■リーガンは、甥のヨウユーが叔父の自分よりもジェンイーに懐いていることに苛立っており、ジェンイーとヨウユーを引き離そうとしていた。そんな中で、ヨウユーも「ジェンチーとは何者なのか、パパとはどういう関係だったのか」という疑問が生じてきた。
□状況証拠だけで逮捕に踏み切ったため、検察としては自白がほしい。「黙秘を続けるならヨウユーからも事情を聞くことになる」と検察官に言われ、ジェンイーはおもむろに口を開く。「すべて認めます」
■シウユーの死の直前に何があったのか。シウユーは重度の糖尿病で足の壊死が進み、医師から足の切断を宣告されて、生きる意欲も失っていた。ジェンイーは、少しでも苦しみを和らげたいと、出会い系で知り合った男から薬物を手に入れる。「老人なら半錠でいい。使いすぎるなよ」と言われており、薬を目につきにくい場所に保管した。その姿をヨウユーが見ていた。
■警察の捜査の手が伸びていることを察し、ヨウユーを連れて山に出かけたジェンイー。ヨウユーの父、リーウェイと来た思い出の山だった。テントの中でヨウユーが眠りについた後、ノートにヨウユーに宛てて長い手紙を書く。ヨウユーの父とのいきさつ、父の最後の言葉が、「ヨウユーを頼む」だったこと、そして「これからいろんなことが起こるだろうが、お前はけっして悪くない」。手紙を彼のリュックサックに入れたところで、彼らの居場所を突きとめてやってきた警察に捕まった。
□「私がすべてやりました」と答えるジェンイー。
■シウユーの死の前夜のこと。シウユーは足の痛みだけでなく、視力も失い、絶望の底にあった。隣に寝ていたヨウユーに「ジェンイーが買ってきた新しい薬、どこにあるか知ってる?」「うん、知ってる」ヨウユーは、シウユーに頼まれるままに、それと知らず致死量の薬を飲ませたのだった。
裁判の後、ジェンイーがヨウユーに宛てた手紙がリュックサックから見つかる。その手紙を手にした検察官が、だれにも会おうとせず自室に引きこもっていたヨウユーの元を訪ねてくる。
ジェンイーの手紙を読み終えたヨウユーは、泣きながら部屋から出てくる。「ぼくがおばあちゃんに薬を飲ませた。僕のせいでおばあちゃんは死んじゃったの?」。
数ヶ月後、髪を短く切りそろえたジェンイーが街を歩いている。殺人の容疑は晴れ、釈放されたのだろう。すでにリーガンは甥のヨウユーを連れて上海に戻っていた。その引っ越しの際、ヨウユーはジェンイーが残した楽譜を持っていく。ジェンイーが家のピアノの前で作曲し、歌詞を考えているときに、ヨウユーが「そこは『翼』がいいよ」と口添えをした曲だった。上海のヨウユーからジェンイーの元に1枚のCDが届く。ヨウユーが、ジェンイーの作曲した曲をピアノで弾きながら歌い、録音したものだった。作曲時になかった2番の歌詞も付け加えられていた。それはヨウユーからジェンイーへのメッセージだった。「君にも翼があるよ」
終始一貫して心優しい人物として描かれるジェンイーがヨウユーを庇うために殺人の罪を被ろうとするところには胸をつかれる。でも、彼の心からの手紙がヨウユーの告白につながり、彼をも救った。映画には描かれないが、おそらく薬物所持の罪には問われただろうが、殺害目的とは見なされなかったのだろう。数ヶ月で出てこられたのは短いとも思えるが。
ジェンイーがピアノ教師であり、作曲もするということで、映画音楽にはピアノ曲が使われている。オリジナル曲だと思うが、ちょっとエリック・サティを思わせるようなメロディもあった。ジェンイーを演じたモー・ズーイー(莫子儀)は、私も名前だけは知っていた台湾の俳優。未見だが「台北に舞う雪」などの日本公開作にも出ている。本作で台北電影奨、金馬奨、亜洲電影大奨と、台湾、中華圏、アジア圏の映画賞で最優秀主演男優賞を総嘗めにした。10代でデビューしたキャリアの長い俳優だが、主演男優賞の受賞は本作が初めてだという。他の作品も見たくなった。
この映画で、ジェンイーの捜査を担当する警察官を演じたのはウー・ポンフォン(吳朋奉)。「父の初七日」では、葬式を司る道士、「アレフ・ザ・プリン(セ)ス」では、中年のゲイの男性を演じた俳優だが、まだ50代の若さで昨年亡くなった。
9歳のヨウユーを演じたバイ・ルンイン(白潤音)の演技もよかった。日台ハーフで子役として多くの作品で活躍中だそうだ。姉のパイ・シャオイー(白小櫻)も子役で、「1秒先の彼女」でヒロインの子ども時代を演じていたらしい!彼女もすごくうまかった。
ところで、この映画の原題は「親愛的房客」、英題は「Dear Tennant」で直訳すれば「親愛なる間借り人」だ。ジェンイーが、屋上のペントハウスに住んでいたことからくる。
邦題の「親愛なる君へ」も悪くないタイトルなのだが、2010年のアメリカ映画に「親愛なるきみへ」というのがあるため、ググるとそればかりがヒットしてしまい埋没してしまう。配給会社は、邦題をつけるときに既存の映画の題と重ならないように気をつけててほしいものだ。
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