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2026年09月12日00:04

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正典がかっちりしているから、もう一段深い闇のオチが刺さる

『犬神家の一族』金田一耕助=吉岡秀隆版(NHKドラマ版)を見終わった。2023年4月に前後編で放映された作品である。
まず、ネタバレ注意。
以下、横溝正史の原作、あるいは市川崑版(金田一耕助=石坂浩二)、または古谷一行版のいずれかを知っていることを前提に書く。
5行を空けます。





金田一耕助が事件の全容を解き明かし、佐清が母の殺人を隠蔽するため、また青沼静馬に道義的な借りがあるために、この佐清すり替わりを容認していた、と説明する。
そして探偵は東京へ帰る。
すべては犬神佐兵衛の歪んだ愛情と遺言書がもたらした悲劇であった、という余韻を残して。

だが、NHKドラマ版にはその先がある。
エピローグで、金田一の下宿に一通の手紙が届く。差出人は犬神佐清。結婚すること、刑期は一年くらいか、などと金田一は下宿の女将に語るのだが、ふいに「二、三日空けます」と言って、どこかへ向かう。

ここから、もう一段階ネタバレ注意。
さらに10行を空けます。










次の場面で彼が向かうのは、拘置所にいる犬神佐清のもとである。
フォト

この事件についての金田一の推理、斧・琴・菊の見立ての演出などの正しさは、結局のところ本物の佐清の証言に依っている。
その佐清に対して探偵は、犬神家の財産をすべて我が物とするために、母と青沼静馬を操ったのではないか、と問いかける。
母の殺人と、静馬の佐清なりすましを容認したのは善意だったのか、それとも悪意だったのか。全部を話してほしい、と。

金田一がそこまで深読みするのは、隠れ家に火を放って自死を図る佐清が、警察への連絡を郵便ではなく子供に届けさせた、その異様な速達性にある。
そこには、自死直前の自分を警察に助け出させる、という計算があったのではないか。金田一はそこまで読んでしまう。

この糾問に対し、佐清は「金田一さん、あなた病気ですよ」とだけ言い、拘置所の奥へ消えていく。
フォトフォト
このラストシーンは実に印象深かった。金田一(吉岡秀隆)と佐清(金子大地)の演技が火花を散らしていて、圧巻である。

さらに佐清が去ったあと、金田一の脳裏にある人物の顔が浮かぶ。
野々宮珠世である。フォト

もし金田一の読みが正しかったなら、佐清と珠世が結ばれなければ、全財産は犬神○○会という法人に寄付される。
ここで、珠世が求婚を拒んで闇を糺してくれる、という期待も成り立つ。
しかし逆に、珠世もまたその闇に飲み込まれるのではないか、いや、もっと怖いのは珠世自身が最初から闇と結託していたのではないか、という想像も生まれる。
あの珠世のシングルカットは、そういう嫌な読みまで可能にする画面設計になっていたと思う。

この吉岡版『犬神家の一族』の「闇のさらに奥の闇」が刺さるのは、やはり石坂浩二版や古谷一行版という「正典」が、視聴者の側に十分刷り込まれているからだろう。
リメイクでここまで掘ることができたのは、その蓄積を最大限に生かした脚本だったからだと思う。
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