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2026年08月22日06:57

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セミの声から、ヒトの男女の問題の領域へ

セミの鳴き声というのは、夏の風物詩としてはよく知っていても、それがオスが鳴いてメスを引き寄せるための声だということを、私は今回調べるまであまり意識していなかった。
理科の教員としてはどうなのか、という気もするが、専門は物理なので少しくらいは大目に見てほしい。

そうなると次に気になるのは、メスの側である。
メスはどんな聴覚器官でオスの鳴き声を聞き分けているのだろうか。
同種のオスの声をきちんと判別する仕組みはどうなっているのか。

鳥になると、人間の耳にもウグイスの鳴き方の上手・下手はなんとなく分かる。
では、セミでもメスは鳴き声の巧拙や好ましさの違いを聞き取っているのだろうか。
人間には似たように聞こえても、当のセミにとってはかなり精密な差があるのかもしれない。

さらに考えると、鳴くオスは捕食者に対して自分の位置をさらしていることになる。
鳥から見れば、鳴いているオスゼミは見つけやすい獲物だろう。
それでも鳴かなければ繁殖の機会を失う。
だとすれば、より大きな危険をオスが引き受ける、という戦略には一定の合理性があるようにも思える。
そういえばカエルも鳴くのはオスだけなのだろうか、などと連想が広がっていく。

……と、ここまでなら、夏らしい生物学の疑問である。
問題は、私の連想がそこで止まらないことだ。

この理屈を人間にそのまま当てはめると、かなり危うい話になる。
死傷のリスクを背負ってでも縄張りや国家を守るのは男の役割なのか、という問いが、すぐに顔を出してくるからである。

さらに、韓国の徴兵制のような問題を考えるとき、「男女の不均衡を是正すべきだ」という議論と、「生物学的には男性のみを徴兵するほうが合理的ではないか」という議論がぶつかるようにも見える。
その背後には、精子の生産コストと、卵子のコスト、妊娠・出産の負担や危険の非対称性がある。
極端に言えば、進化論的な図式の中では、男性のほうが失われても代替しやすい存在と見なされやすい。
言葉にしてしまうとあまりに非人道的だが、そうした発想が生まれてくる構造自体は理解できてしまう。

ただし、理解できることと、それを人間社会の規範として受け入れることとはまったく別である。
生物学的な説明は「なぜそういう傾向が生じうるか」を語れても、「だからそうあるべきか」という問いには答えられない。

それでも、この問題が厄介なのは、理屈だけでは済まないからだ。
たとえば、男子五人、女子五人の集団から、死地に赴く一人を完全に公平なくじ引きで選ぶ場面を想像すると、多くの人はためらいを覚えるのではないか。
その抵抗感は、男の側だけでなく、女の側にもあるように思える。

そして、ここから私の連想はさらに物語のほうへ飛ぶ。

小松左京『復活の日』では、任務への配慮からの男女数の不均衡。それが一転、南極が人類最後の避難地となるが、その著しい不均衡が災いして、「復活」そのものが困難になる。
生き残ればそれで終わりではなく、その後に続く人類の再生産まで含めて、性差は重い意味を持ってしまう。

萩尾望都『続・11人いる!』では、タダが宇宙船乗りを目指すなら、フロルもまた宇宙船乗りを目指す。
両性具有で、やがて女性を選ぶことになる存在でありながら、ただ「待つ側」に回ることを拒む。
「お前が無事に帰ってくるのを待つだけの役割はいやだ」という叫びは、まさにこの問題の別の側面を突いている。
守られる側、待つ側として位置づけられることへの反発である。

『エイリアン2』のバスケス(女性海兵隊員)の場面も思い出す。
追い詰められ、ポンコツ中尉とともにエイリアンに挟み撃ちにされたとき、彼女は「アンタ、やっぱりだめな奴だったね」とでも言うような調子で、自爆用の手榴弾のピンを外す。
あの場面には、単なる勇敢さだけではなく、諦めと、相手への奇妙な赦しのようなものがにじんでいた。
死地に赴く者の顔つきというのは、単なる役割論では語りきれない。

そして最後には、茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」が浮かぶ。

わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差しだけを残し皆発っていった

ここまで来ると、もはや「誰が死地に赴くのが合理的か」という問いではなくなる。
勝手に旅立ってくれるなよ、という感情のほうが前に出てくる。

この問題に、きれいな答えは出ない。
生物学の理屈だけでは足りず、倫理だけでも割り切れず、感情だけでも整理がつかない。
だが、たぶん人間について考えるとは、こういう三つ巴の衝突を前にして立ち止まることなのだろう。
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