酒のコミックとして、まず最初に挙がるのは、古谷光敏『BARレモン・ハート』である。
これは、うんちく漫画として非常に強力なテンプレートを持っている。
レモン・ハートのマスターは、たいへん分かりやすいうんちく王である。
酒に関しては知らないことがないのでは、と思うほど博識で、彼に次ぐ酒博士の「メガネさん」とともに、酒音痴の「松ちゃん」に、酒にまつわる深いエピソードを語って聞かせる。
松ちゃんはフリーライターで、レモン・ハートではマスターがいちばん嫌がるウーロンハイしか飲まない。
文学や時事問題ではいい記事を書こうと情熱を燃やす万年青年、いや、もはや中年なのだが、酒については何も知らない。
だからこそ、この二人の高説を素直に聞いて感心する役として、実にうまく機能している。
こういううんちく漫画は、一つのエピソードを描くにも、裏付けや証拠集め、関係者への聞き取りなど、作者本人だけでなく編集者まで動員していたのではないかと思う。
嘘のもっともらしいエピソードにしないために、かなり神経を使っていたのではないか。
雑誌連載時から事情が変わった場合には、単行本で正しいネームに差し替えることもあったのでは、と想像する。
うんちく漫画には、けっこう重い責任があるのだと思う。
次に思い浮かぶのは、食漫画として対照的な二作、安倍夜郎『深夜食堂』と、久住昌之・作、谷口ジロー・画『孤独のグルメ』である。
『深夜食堂』は、小林薫がマスター役を演じたドラマにもなった。
こちらは料理のうんちくというより、料理にまつわる人情話が中心である。
マスターは「作れるもんなら何でも作ってやる」というスタンスで、客の思い出や事情に寄り添う。
赤いウインナーソーセージを、客の要望で「カニさんに切ってやろうか、タコさんにするか」と言う場面は、母の弁当を思い出させるエピソードとして、強く印象に残っている。
一方、『孤独のグルメ』は、松重豊演じる井之頭五郎の、一人食べ歩きのドラマとして長く続いた。
何シーズン続いたのだろう。
役者としてのスリムな体型を保つため、そろそろ降板したいという噂がいつも立つが、それでも続いてきた。
「腹が減った」を解消するために市井の店へ入り、一人で食を堪能する。
その健啖ぶりと、次に何を追加しようかと考える、あのちょっとした戦略性が人気の理由なのだろう。
食漫画といえば、巨大な影響を多方面に与えた『美味しんぼ』も外せない。
アニメは何シーズンも作られ、実写映画では実の親子である三國連太郎と佐藤浩市が、海原雄山と山岡士郎を演じた。
ただ、これについてはまた別の日記で書きたい、これが+1の予告。
いや、漫画もまた、小説と肩を並べるくらい奥が深い。
子どものころ一時期、駅には「悪書追放」と書かれた漫画回収箱まで置かれていた。
そんな時代は、もうはるか彼方である。
もっとも、少なくとも私たちの世代で、あそこへ自発的に捨てた者はいなかったと思うが。
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