これは、現・アメリカ大統領ドナルド・トランプの人なりが如何にして出来上がって行ったのかを描く話題作。
監督は「聖地には蜘蛛が巣を張る」のアリ・アッバシ。出演は「キャプテン・アメリカ:ウィンター・ソルジャー」のセバスチャン・スタン、「ジェントルメン」のジェレミー・ストロング。
米国では昨年公開されたが、その際にトランプ大統領候補(当時)陣営が公開差し止めを画策したとされ、現在では最早公開出来ない内容だろう。
20代の頃、ドナルド・トランプは、不動産業を営む父の会社の下で働いていたが、会社が政府に訴えられ経営危機に陥っていた。
そこで、トランプは、大統領をはじめとする大物顧客を抱え、勝つためには手段を選ばず、法さえ無視する悪名高き辣腕弁護士のロイ・コーンに弁護を依頼する。ロイ・コーンは、ナイーブなお坊ちゃんだったトランプを何故か気に入り、“勝つための3つのルール”を伝授する……それは、「1、攻撃、攻撃、攻撃。2、非を絶対に認めるな、3、勝利を主張し続けろ」と言うものだった。
やがてトランプは事業で成功を収め、いつしか“見習い(アプレンティス)”を脱し、ある種の怪物へと変貌していく……
この映画だが、就任以来(いや、その前から)世界を振り回しているドナルト・トランプと言う男が如何にして形創られたのかを描くもので、これは多くの人の関心を引くものだろう。
その内容だが、これが意外にも政治色が薄い――政治家となるずっと前、ドナルド・トランプが世間に名を響かせたTV番組「アプレンティス」の放送前の20代と言う、これまであまり知られる事のなかった青年期を描いているせいもあり、政治劇と言うよりも、何者でもない若者の成長を描く、「青春映画」として出来ているのだ。
これは、監督がイラン出身のアリ・アッバシだから出来た事ではないだろうか。そして、アリ・アッパシ監督は本作を「トランプ大統領に観て欲しい」と語っているように、最高権力者であるトランプに対し、媚び諂いをせず、忖度などは微塵もない――それはそうだろう。イランでは「言うべきことを言う」を貫いて投獄されたり、殺害された同胞が多数いるのだ。「アメリカでは映画で殺されはしない」と言う達観が、本作の背後にあるように思う。
それが色濃く出ているのが、トランプと最初の妻・イヴァナとの関係、そして、映画の中心となるロイ・コーンとの関係だ。
前者については、実名でここまでやるのか、と言う描写もあるのだが、それ以上に強烈なのが、やはり、トランプの生涯の師、とも言えるロイ・コーンとの関係性だ。前述した“勝つための3つのルール”を叩き込んだのもロイ・コーンだし、日々、それを実践するよう求めたのもそう。それが、今のトランプの言動や行動の背後にある、と言うのは、正に“腑に落ちる”ものだった。
物語の方はビルディングス・ストーリーの王道で、トランプが力をつけるに従い、ロイ・コーンが衰えて行く様を描いて、立場の逆転を見せて行く……この辺り、実際とはやや異なるようだが、物語としてはよく出来ていると思う。
そして、同時に思う……この“勝つための3つのルール”、振り返って見れば全く特異なものでもなんでもない、と言う事――保身の為、呼吸するように嘘を連発した安倍元総理や、自身の誤りを決して認めない斎藤元彦兵庫県知事を始め、例に暇がない――今や、世界の多くの政治家が、この“勝つための3つのルール”に従って動いていると言っていいのではないだろうか。そして、そんな“凡庸な存在”により、世界が動かされていると言う事にあらためて愕然とする。
本作でトランプを演じるセバスチャン・スタンは、メイクで髪型や体形は合わせたものの、顔は特に似せていない、と言う……それでも、青年時代も中年時代も本人そのものに見える、その演技力には感心をした。
また、ロイ・コーンを演じたジェレミー・ストロングの鬼気迫る演技も見逃せない。
映画としては、内容が内容だけに出資者も腰が引けたのだろう、ハリウッド映画としては低予算の部類で、1980年代当時の再現など至らない部分も散見されるが、多くの人にとって関心のある内容を、決して個人攻撃にはならないよう節度を以て描いており、これは正に“今観る”価値のある1本だと思う。
ログインしてコメントを確認・投稿する