これは、「僕はイエス様が嫌い」の奥山大史監督による長編第2作にして商業映画デビュー作。
出演はいずれも映画初出演の越山敬達、中西希亜良。2人とも4歳の頃からフィギュアスケートを習っていると言うが、中西希亜良は演技初体験だと言う。そんな2人のコーチ役を演じる池松壮亮だが、ちゃんと達人に見えるのだから大したもので、これが俳優と言うものか……
吃音をもつ小学生のタクヤは、スポーツ少年団に所属しているけれど、野球にもホッケーにも身が入らない。そんなタクヤだが、冬のある日、フィギュアスケートを練習する少女さくらの姿に心を奪われてしまう。
見様見真似で、ホッケー靴のままフィギュアのステップを踏むタクヤを見かねた、元フィギュアスケート選手でさくらのコーチでもある荒川は、スケート靴をタクヤに貸し、彼の練習につきあうことに。やがて荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始めることになるが……
奥山大史監督は、「僕はイエス様が嫌い」以降、TVやCMで活躍しており、映画は5年ぶりの2作目。だが、これが見事な映画となっており、奥山監督はやはり“映画の人”だと思わせる。スタンダードサイズの映像、写り過ぎないフィルムの質感……それは、デジタルで再現されたものではあるのだが、そこにはやはり懐かしい匂いがあり、敢えて時代性をぼやかした本作の雰囲気と見事に調和している。
(もっとも、若い観客が「昔のTVみたいで映画らしくない」と評するのには苦笑するしかないが)
物語の方も、ちょっと古びた要素を盛り込んでおり、フィギュアスケートを「女子のスポーツ」、同性愛者に対する偏見などは、現在の物語ではありえないものだろう――奥山監督は、少年時代にスケートの経験があると言うが、その頃のエピソードが元になっているのでは、とも思えた。
そんな要素を盛り込んで描かれるのは、”片想い”だろうか……タクヤとさくらと荒川、すれ違う3人の想いが、その関係を美しくまとめて行く、と言うのはいささか皮肉な展開とも思えるが、人間関係とはそもそもがそんなものかもしれない。
3人の関係は、荒川の想いをさくらが知ってしまった事で脆くも崩れて行く……さくらが荒川に吐き捨てた言葉は、少女の純真さ故の残酷さでもあるし、少女は、その残酷さが自身に跳ね返る事も知らない、と言う描写には、それまでの美しくあった関係性があった故に、心揺さぶられるものがある。
最後、「言いたいこと、本当の事が言えない」タクヤが、言葉を口に出す前に終わるが、これは様々な可能性を考えさせられる、余韻を残した見事なエンディングと思う。
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