封切り2日目の土曜日、近所のシネコンのレイトで観賞。カンヌで主演のソン・ガンホが受賞するなど話題になっていたこともあり、なかなかの入り。このシネコンでは何度もおひとりさまを体験していることを思うと、両脇をポップコーンを持った人に挟まれるというのは何年ぶりかと思う。
ベイビーボックスに子どもを預けた母親、その子をこっそり売ろうというブローカー、彼らを追う刑事、そこに施設育ちの子どもまで加わった奇妙なロードムービー(それ以上のストーリーには触れていません)。
韓国人俳優が韓国語で話し、撮影地も韓国なのに、韓国映画を見ている感じがしない。ある韓国人のレビューに「トッペギ(韓国料理でよく使われる土鍋)に入れたスシ」と書かれていたが、韓国で撮ったけど、中身は日本映画だと言いたいのだろう。
でも、日本映画っぽいわけでもない。強いて言うなら、是枝映画なのだ。是枝監督は韓国人俳優を使って韓国で撮ったけれど、世界のどこでもなく、どこでもありうる普遍的な物語として描きたかったたのだろう。
しかし、なかなか評価の難しい映画である!
あまりにも淡々とした描き方なので、ひょっとしたら途中で寝たかも知れない。いっそのこと徹底的にコメディ仕立てにでもしてくれたら、寝ずに見られたのにと思ったりもした。是枝監督が伝えたいと思うことはこれなんだな、というのが如実に感じられるとても印象的なシーンがあって、このシーンがある意味クライマックスだったのかも、とあとで思ったけど。
出演俳優がとにかく豪華だ。こんな配役が可能になったのも、韓国でも愛されている是枝監督でならではと思わされる。
ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナ。
子どもの母親役のイ・ジウン。ドラマ「マイ・ディア・ミスター 私のおじさん」で初めて知って、彼女の演技に惹きつけられたが、この映画でも期待を裏切らなかった。
「野球少女」のイ・ジュヨン。「三姉妹」長女役のキム・ソニョン。その夫役にソン・セビョク。「はちどり」の漢文の先生のキム・セビョク。その夫役にイ・ドンフィ。
ほかにも、気づいていなかったけど、いろんな人が出ていたようだ。
是枝監督は「そして、父になる」を作った2013年頃、養子制度や養護施設について調べる中で、韓国の「ベイビーボックス」のことを知り、この映画の構想が生まれたという。そして、シナリオを書き、韓国での制作が可能になった時点で、現地のリサーチをしたという。だから、ベイビーボックスの実態や賛否両論があることも知っている。親に捨てられた側である養護施設出身者からも間接的に話を聞いたというが、子を手放さざるを得なかった母親の側の取材はできなかったのではないかと思う。韓国では未婚の母に対する差別が厳しい。実は、そこが一番の問題なわけだけれど(映画では、子どもの母には特殊な事情があったことになっている)。
こうした韓国独得の事情を知った上で、映画では、あえてそこにフォーカスしていない。「これは韓国の問題だ」と受けとられることを避け、誰にでも通じる物語を目指したのだろう。これはすべての人にとっての命の話であると。
たとえば、この映画には、家族の情緒を匂わせるような食事シーンがない。韓国での食事シーンは、時として家族至上主義や家父長制、女性差別の滲み出る場でもある。この映画の中で食べるシーンといえば、張り込みの車の中で刑事達が啜るカップ麺のような殺伐とした食事ばかりだ。
また、ベイビーボックスに預けられた大勢の子どもたちが教会内の養護施設で育てられている場面にもドキッとさせられる。こんなにもいるのか、と。
ブローカーのうちの一人は、別の養護施設で育った青年であり、彼の口を通して施設出身者への差別が語られる。
カンヌでの上映時にも賛否両論があって、「人身売買という重大犯罪に甘すぎる」というような評もあったというが、そういう映画じゃないことは見たらわかりそうなものだ。
韓国映画には、子どもの誘拐や売買をモチーフとする話がけっこう多い。内容も、身代金目的の単独犯の時代から、国際的な臓器売買が絡んだ組織犯罪へと、より怖ろしいものになっている。今やそんな決まり切ったパターンのストーリーには食傷気味ですらある。
事情があって生みの親が育てられない赤ちゃんの育ての親を、肉親でも何でもない人々が一緒に移動しながら探しに行くという一見、牧歌的なロードムービー。血縁によらない家族という是枝監督の追及してきたテーマは、ラスト数分に凝縮されているのだろう。こうやって書きながらも、いろいろ見落としていることが多い気がして、もう一度見て考えてみたくなった。
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