ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

哲学の塔コミュの第二章5

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
「空が落ちてくる、と彼女はそう言ったのだな?」
クローバー警部がマシューに質問してきた。
「…はい。」
「そしてあのざまか…。」
クローバー警部は塔を見上げた。
数人の警察官が、塔の入り口から、エリ・マーリンの遺体を運び出すところだった。
警官がひとりやってきて、警部の耳元で囁いた。
「やはり、彼女は屋上に落下して死んでいます。遺体の損傷、屋上の損傷、全ての状況から
 言って、別の場所で落下させて殺して、屋上に死体を移動してきたとは考えにくく、 
 恐らく、昨日の事件と同様の手口で…殺されたのではないかと。」
「だとすれば、何だかのトリックを使って、この“哲学の塔”の屋上に彼女を落下させて殺
 したということか。エリ・マーリンを。」
「空から落ちてきた、ではなく、空が落ちてきた、と言った。どうも引っかかる。」
隣で私立探偵ドイルも唸っていた。
それを横目にクローバー警部が言った。
「うるさい男だな。捜査の邪魔だ。一般人とその他大勢はあっちに行きたまえ。」
「うるさい警部だな。アンタが監視していて、2人も人が死んだってのに、何だい。」
ドイルは反抗するように、彼にぶつかり、弾き飛ばす。
「貴様ぁ!ロンドンの切り札が聞いて呆れるぜ!」
クローバー警部も彼にぶつかり、弾き飛ばす。
そして、子供のような喧嘩に発展し、事件を捜査している他の警官が迷惑そうに止めに
入っていた。これは事件解決まで時間がかかりそうだった。
「お姉さん!お姉さん!僕だよ!サイモンだよ!あああぁぁぁぁ!」
その叫び声に振り向くと、マーク・サイモンが泣き喚いていた。
警官に止められ、その場にうずくまる彼の姿に、心が痛んだ。
生前のエリ・マーリンが、弟のサイモンを抱きしめる姿が浮かび、余計に。
さっきまでは、その光景にイライラしていたが、サイロン教授のあの姉弟のいきさつを
聞かされて、考え方が変わった。すると情景も変わるものだ。
それは、サイロン教授がイカれた神学者だと思っていたのが、彼の言葉ひとつで、全く違
う彼に対する見方になった事と一致する。
この世で、言葉ほど、人の考えを変えるものは、存在しないんじゃないか?そう感じた。
だとすると、本の中の妖精、クロエ・W・ウィスパーは、言葉だけの世界に生きて、何を感
じているんだろうか?
サイロン教授の、この世には光と影があると言った言葉を思い出した。
どちらの世界が光で、影なのか?
僕は、迷信が真実なのか、噂なのか、あらゆるものに対する猜疑心が揺らいだ。
 マシューは、虚ろな瞳で、疲労した表情で、思考を巡らせる。
すると誰かに肩を叩かれ、振り返ると、指が頬に突き刺さった。
「…誰みゅ?」
「ぷっ!ははははは!」
アリスだった。場違いなくらい明るい声で笑うアリスに、少し不謹慎な気持ちを抱いた。
マシューは、まるで相手にもせずに、溜め息をつき、その場を去ろうとする。
「む?」
すると、次はお決まりに足を踏んできた。
マシューはなおも無視を続ける。痛さは物理的なものじゃない。心の痛さだった。
煮えを切らしたのか、アリスは右手を振り上げ、マシューを殴ろうとする。
それを察知して、マシューは彼女の方を睨みつける。
「いい加減にしなよ、君!どうしてこんな時にそんなくだらない冗談ができるんだ!」
そのマシューの初めて見せる怒る表情と叫び声に、さすがのアリスもたじろいでいた。
周りもふたりの様子を眺めていた。遠くでクリス叔父さんが、心配そうな顔でこちらに
近づいてきていた。クリスティーナも心配で来ていた。
マシューはなおも叫ぶ。
「人が死んだんだよ!見なよ、あそこに死体がくるまれてる!
 冗談じゃなく、人が死んだんだ!笑ってられないよ?
 僕は、エリさんが亡くなる直前に会って、しゃべっていたんだ!
 僕が今、どんな気持ちか分かる?君に…」
「分からない!」
アリスの右拳が、マシューの左腕を弱々しく殴る。
何度も何度も殴る。
「分からない!分からない!分から…」
アリスは泣いていた。肩を弱々しく震えさせながら、うつむいて。
「私も見た…奇術師の死体も。エリさんの死体も…ずっとマシューと居たから…」
そうだった、と、マシューは気づいた。
哲学の塔のあのおっかない螺旋階段を、彼女はマシューの服の袖を引っ張りながらも、
一緒に昇ってきていた。一緒に事件に遭遇し、恐ろしい目に遭い、そして彼女自身も相当
ショックを受けているはずだ。
そんな素振りを見せず、明るく振舞うアリス。それはきっと、目に見えて疲労し、エリの
一件もありショックを受けている留学生を励まそうと必死になっていただけなのだ。
「私は…器用じゃない。ただ明るいだけが取り得で、今、自分がどんな気持ちなのかも分
 からないし、マシューが何を考えているのかも分からないし…
 マシューがエリさんに目をギラギラさせていたのも気にくわないし…」
「目をギラギラ!?」マシューはなぜか恥ずかしくなってきた。
「エリさんが亡くなったことは悲しいことだけど、
 マシューにとって私は何なのか分からないことが悲しいし…
 マシューが元気がないから何かしないといけないのに、何をしたら良いのか分からな
 い事が悲しいし…」
とうとうと語るアリスを見ていて、マシューは彼女が何を言いたいのか、少しずつ察し
てきていた。
「マシューがいきなり怒鳴ってきたから、ものすごく悲しい…」
マシューは、少し落ち着き微笑んだ。
「ありがとうアリス、僕はもう大丈夫だよ。」
その一言に、アリスの顔は明るくなった。
「本当に?本当に本当?」
「うん。それに僕にとっては君はすごく大切な友達だよ。」
マシューはこのいつも明るく、そしてつかみどころがないくらい自由奔放で天真爛漫な
アリス・ブラックウェルの事を、少しずつ理解してきた。
留学当初からマシューに絡みだし、留学生が珍しいのか、お節介なのか、いつも一緒に居
た彼女の事をあまり理解していなかったマシューは、一緒に居るのが当たり前になって
いた彼女に対して、以前よりも関心を抱くようになった。
アリスなりの愛情表現とやらを、微笑ましく感じた。
「こんな陰惨な事件が起きたんだ。みんな、精神的に辛いのは一緒だよ。」
後ろからクリス叔父さんが優しく諭してくれた。
「君は留学早々こんな事件に巻き込まれたんだ。仕方がない。そしてアリス君も同じで、
 ショックを受けている。僕もこういうのは苦手で…」
するとアリスが思いっきり足を踏んできた。
「痛っ!!何するんだ、君は!」
「マシューは外国の女を飢えた目で見過ぎ!そして私という素敵なレディーに対して
 怒鳴って泣かせた!反省してもらうからね!私を喜ばすことだ!いいね!」
アリスが嬉しそうに怒鳴ってきた。
なんだか滅茶苦茶な言い分だったが、ロンドンの曇り空のようなどんよりとした気分が
少しばかり晴れたので、苦笑いを浮かべながらうなづいた。
「事件は酷く残酷な現実ですわ。でも、私たちが落ち込んでいては駄目です。少し忘れて
 元気を出しましょう。お茶のお時間ですわ。」
クリスティーヌは、明るく微笑みながら言った。
僕はひとりじゃない。クリス叔父さんやアリス、クリスティーヌが居る。何があってもこ
こに信じれる人たちが居る。だから、きっと何が起きても大丈夫だ、と感じた。
言葉はとても大切。でも言葉だけでは世界は成り立たない。
それと同じくらい人の体温、感情、理解、信頼は大切で、それは時間と共に深まっていく。
 マシューは、薄暗くなったハイドパークのベンチで、街灯の灯りを頼りに、自分が感じ
たこと、事件の後の経緯を少しだけ付け加えて、彼女、クロエ・W・ウィスパーの返事を待
っていた。現実の世界の出来事を。
すると、言葉がノートにフェードインしながら現れた。
『謎を記せ』
マシューは、愉快に笑顔になった。
「早速来たね!謎の本が謎を欲しているなんて、不思議だけど。」
『謎を記す
 ・“空が落ちてくる”とはどういう事なんだろう?』
そう、あの時、エリ・マーリンは、妙な事を口走っていたんだ。
屋上に落下する人間が、なぜ、空が落ちてくる、と言ったんだろうか?
それが、不思議でならなかった。
すると、ゆっくりと、彼女の解が示された。
『解を示す
 ・君、ロンドン・アイに乗りたまえ。』
マシューは、キョトンとした。
「ロンドン・アイ?何だろ?」
マシューは、聞き覚えのない、その言葉につまずいた。
すると、急に誰かに目隠しをされ、視界が暗闇に包まれた。
「だ〜れ、だ?」
「うわああぁぁぁぁ!」
マシューは突然の出来事に気が動転し、本を投げ出し、ペンも投げ出し、その場にベンチ
から崩れ落ちた。
後ろを振り向くと、笑っているアリスの姿を確認した。後を追ってきたようだ。
「君、ねぇ…。」
「ビックリこいた?あはははは!お茶の後、急に公園に一人で行くんだもん。」
「ちょ…ちょっとね。それよりちょうど良かった!明日、ロンドン・アイに乗りに行かな
 い?それで、ロンドン・アイって一体…ん?」
アリスはそのマシューの言葉に、嬉しそうに目をキラキラさせていた。
嫌な予感が…。
「勿論!もっちもっちよ!マシュー!」
アリスはマシューを軽くハグすると、嬉しそうにスキップしながら去って行った。
マシューは、本を手に取ると、“金の梟”のペンが見当たらないのに気づいた。
暗闇で闇雲に探すがみつからない。彼はノートを垣間見ると、こう記されていた。
『伝言だ。
 探してみたまえ。世界の欠片を。この私を。シルハット・L・ワルツ』

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

哲学の塔 更新情報

哲学の塔のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング