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「駄文倶楽部。胡蝶庵。」コミュの【絶唱】感応

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 ビッグスクーターが走ってって
 その小さな車輪の回転数と
 中を走るマウスの性格を考えながら
 僕はバスに揺られて
 手すりにつかまりながら
 となりでポールダンスしているあの子をぼんやり見る
 男がその子の手をとって
 ホテル街の近くでバスを降りる
 値段交渉は短く終わる

 次の停留所までの時間はひどくひどく長くて
 だけどこのバスにトイレなんてない
 だから窓を開けて僕は外を見る
 トイレでもあれば飛び降りちゃおうなんて
 考えながら
 だけど外はただの夜
 夜には夜しかないから
 僕は待つのです

 運転手は大きなヤマカガシ
 アオダイショウかなんかだと思ってた僕は
 ネームプレートを見て大笑いする
 体を巻き付けて運転していて
 シートベルトなんて不要なのです
 トイレのことなんて忘れて僕は
 運転席の後ろに座る

 気付けば乗客は僕一人
 バスは漆黒の夜の中をひた走る
 次の停留所の表示なんてなくって
 このまま車庫に行くのかもしれないし
 スイッチのつけ忘れかもしれない
 時折すれ違うヘッドライトが無いと
 僕はここが道路であることすら忘れてしまう

 夜が次第にせりあがってくる
 ガードレールはいつのまにか見えなくなって
 前の車のテールライトなんてもう見えない
 ライトをつけないと駄目だよ、
 僕はそう呟くのだけれど
 運転手さんはまるで聞く耳を持たない
 知らん顔して口笛ふいてばっかり

 僕はポケットからイヤホンを取り出して
 どこかに逃げようとする
 耳につっこんだイヤホンから流れるのは
 古くさいラブソング
 他の曲にしようと思うんだけど
 そもそもウォークマンもiPodも無いんだった
 仕方ないからその曲を聴く

 次第に運転手に手が生える
 ああ、あなたは蛙だったのですね
 いや、脚が先ですよ
 答えたのはバスの広告に載っていたバスのキャラクター
 ああ
 そうだったね

 運転手は次第に人に近づいていく
 よく見ると女性の体に近づいていく
 いやいや
 フロイトさんが見たら怒るよ
 そんなの
 と思ったら男になっていった
 いやいや
 文学の先生が怒るよ
 そんなの
 と思ったら両性具有になった

 トリソミー? と聞いたら
 ええそうですよ
 と答えられた
 あれ
 あなたに耳はあったんだ

 僕が驚くと
 その蛇だったヒトはもっと驚いて
 その拍子にマウスを一匹吐き出すのです
「ああ、やっぱり四輪の方がいいですね」
 マウスはそう呟いて
 僕と蛇だったヒトはそのマウスを可愛がり
 おだてて運転させながらお話しをした

 蛇だったヒトが完全に蛇でなくなると
 バスは適当な所に停車した
 そこは夜の真ん中だった
 蛇だったヒトはそこで降りた
 僕は降りなかった
 蛇だったヒトは惜しそうに手を振った

 運転手のマウスは小さな体でハンドルを握る

 あのマウスがヒトになったら
 僕は何を話そうか
 考えながらぼんやりしていると
 さっきの広告のキャラクターが寝息をたてはじめた

 ビッグスクーターが追い越していく
 マウスは涙を流す
 ああ、恋人かなにかですか
 と僕が尋ねると
 話すと長くなるのです
 と言って話してくれなかった

 次の停留所まではかかりますか
 と尋ねたら
 私は今日からなので分かりませんと言われた
 それもそうだと頷いた僕は
 イヤホンからの古くさいラブソングに耳を澄ますのだった

 夜がせり上がってきて
 そのうちに空を押し返す時まで

コメント(3)

今読みました。
本嫌いなんだけど、さらさら読めてしまう。。
好きです!

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