豊田有恒
NHKの番組で豊田有恒氏の最近の姿を見たので思い出して取り出した。原著は79年、文庫版は86年の出版で、私は高三の秋に買ったようだ。SF作家になりたかったわけではない。その頃読んでいた平井和正のエッセイか何かで豊田有恒の名前を知ったのだろう、著者には申し訳ないが氏の著作はこれしか読んでいない。ついでに言うと私の読書歴では国内SF作家の狭い一部しかカバーしていない。
SF作家第一期の視点による内輪話。徳間書店のSFアドベンチャーに連載されていたのだろう。この著作により国内のSF黎明期の事情、手塚プロダクションの顛末、座談会事件、エイトマンとの関係、宇宙戦艦ヤマトの裏事情などを知った。ゴシップ的な話なのでSF読者としては本質的に知る必要などないのだが、知ったことで国内SFコミュニティがより身近に感じられるようになった。大学でSF研と関わりを持つことになる遠因となった、と思う。
SFを書きたいという強い思いからSF作家の道を選んだという。筒井「着想の技術」の豊田版と言えるだろうか。あちらは堅くてロジカルだがこちらは口語体で柔らかい。こういう文章の書ける著者は謙遜しているが相当に頭の良い方だ。放校にはなったが慶應医学部に合格しているし英語も堪能。別の職業についていても成功していた、かどうかはわからない。喧嘩っ早いとも書いているし。氏は38年の生まれで2020年の現在では82歳、もうしばらくお元気でいてほしい。
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