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2019年09月18日05:32

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黒澤明監督作品『天国と地獄』が映す1960年代の世相

 古い映画は、その時代を写す鏡だ。過日、NHK−BSプレミアムで放映した黒澤明監督の『天国と地獄』(写真)は、今から半世紀以上前の1960年代初めの日本社会を知るのに興味深く観られた。むろん映画自体のストーリーも面白かった。

◎1963年公開
 監督はじめ、出演俳優はほとんどが今や鬼籍に入っている。何しろ1963年に公開された映画だ。
 ストーリーは、三船敏郎演じる靴メーカーの常務の運転手の息子が、常務の息子と間違えられて誘拐される。その常務は、靴メーカーの将来をめぐって、昔ながらの頑固な創業者「おやじ」と、その経営方針に反対し、デザインは洗練されているが製品は安っぽい靴で利益を最大化させようとする専務グループ3人と対立、会社の経営権を握るために密かに株を買い集め、決定的なまとまった株をついに買い取る契約をまとめ、その手付金5000万円を準備する。

◎捜査会議のもうもうとした紫煙に時代を知る
 誘拐犯から要求された身代金3000万円を支払うには、株買い取りを断念せざるをえない(写真)。経営権取得の株買い占めのために、家や家財も含めてすべて担保にしている。身代金3000万円を払えば、破産せざるを得ない。
 最初は頑強に「身代金など払わん」と言い続けていた常務は、翌日、誘拐犯からの3度目の電話でついに身代金を払う、と約束する。
 そして若き日の山崎努演じる誘拐犯とこれも若々しい仲代達矢演じる捜査を指揮する警部との虚々実々、知恵の攻防が、息つく間もなく展開していく。
 興味深かったのは、当たり前だが、この時、ほとんどの成人は喫煙者、スモーカーだったこと。捜査会議では、数十人の刑事たちのくゆらす紫煙に包まれる。街頭で、誘拐犯や通行人は好きなだけ咥えたばこをし、しかもポイ捨てする。
 今なら誘拐事件捜査には欠かせない婦人警官もいない。

◎ヤクチュウがヘロインとは
 また当時の営利誘拐の罪が、最高刑懲役15年だったことも昔日の感を深くさせる。この余りにも軽い刑に憤る警察陣は、誘拐犯を突き止めながら、すぐに逮捕することはせず、ヘロイン中毒の共犯者夫婦を殺したことの殺人罪での立件を目指し、泳がせ捜査をする。
 ヘロインなど、今やヤクザも扱わない麻薬だ。当時は覚醒剤はなかったのだろうし、コカインも日本には無かった。
 誘拐犯が高純度のヘロインを売人から買うための横浜、伊勢崎町のダンスホールでは、在日米軍兵士たちが多かった。今では、お目にかかれない。背景の壁に書かれたメニュー表の価格には、当時の物価がしのばれ、思わず目が行く。

◎厚さ7センチの鞄の秘密
 誘拐犯の指示で特急に乗せられ(当時、東海道新幹線は未開業だった)、窓の開かない特急電車から5000万円の入った鞄を投下し、誘拐の共犯者に拾わせるトリックは、鞄の投下できる窓が開くのは洗面所だけで、しかもやっと7センチだけという仕組みを利用した巧みな設定だったが(写真)、身代金目当ての誘拐事件の他に、身代金受け渡しに、様々な模倣犯を生むという副作用も伴った。
 身代金目当ての誘拐事件では、犯人は必ず身代金受け渡しのために姿を現さざるを得ないが、走る電車からの投下では、そのリスクを避けられる。しかしこの犯人も、共犯者を使わざるを得なかったために、墓穴を掘る。
 模倣犯は生んだが、営利誘拐の重罰化の他に、営利誘拐は決して割に合わない犯罪であることも知らしめた効果はあった。

◎せめて誘拐犯の半生を描いて欲しかった
 黒澤作品は、現代でも全く古さを感じさせないほど作りは精緻で、自然である。普通なら半世紀前の作品なら、不自然な作りと設定などが目立ち、今の僕たちにはとうてい鑑賞に耐えないが、それを感じさせない。
 しかし犯人が将来の明るいはずのインターン医師だったのは、やはり不自然に感じさせる。結末で、死刑の確定した獄中の誘拐犯に、「地獄のような」人生だった、と語らせているが、それが全くリアルに感じさせない。せめて誘拐犯の半生を描き込まなければ説得力が乏しい。
 出演者は、ベテラン揃いで演技は洗練されているが、ほとんど唯一の出演女優である常務の妻役を演じる香川京子はミスキャストと言えるほどお粗末だったのは残念だった。京マチ子あたりに演じさせたら、と思わざるを得ない。

注 容量制限をオーバーしているため、読者の皆様方にまことに申し訳ありませんが、本日記に写真を掲載できません。
 写真をご覧になりたい方は、お手数ですが、https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/201909180000/をクリックし、楽天ブログに飛んでいただければ、写真を見ることができます。

昨年の今日の日記:「自社株を買うか買わないか、天国と地獄を分けるのは会社の盛衰:時価1兆ドル超えのアマゾンとリクルートHD」

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