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2019年05月04日18:04

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言葉と音楽

以前からつぶやきで報告しているとおり,ある多彩な才能をお持ちの方から,今回「自作の詩に曲を付けてほしい」とのご依頼を頂いた。

そのような機会を下さったことに,とても感謝するとともに,詩と音楽のコラボレーション,楽しさの中にも真剣勝負を挑むような気持ちで,なんとか1曲仕上がった(^^

頂いた詩が静謐さと揺らぎ,そしてやわらかな暖かみが感じられる内容だったので,それを音楽で表現してみたつもりだが,産みの苦しみと言うよりは,創作の楽しみの方が多く,自分自身が楽しんで,作曲作業を進めることができた(^^

今回,詩にメロディを付けるという経験を通して感じたのは,「言葉の重さ」。

言葉は直接に対象を特定し表現するから,固く,重い。
例えば,言葉で「赤」といえば,まあ赤い色も,薄いピンクから黒に近い濃い色まで濃淡の差はあるにせよ,そこから「青」を連想する人はいない。
一方,音楽は,ある旋律から「赤」の色彩を連想する人もいるだろうし,「青」をイメージする人もいるだろう。
音楽は抽象的なものなので,言葉のように感情や物事を特定して表現することはできない。

だから,人類は,情報伝達やコミュニケーションのツールとして,音楽ではなく言葉を選択したのかもしれない。

鳥の求愛,クジラの歌をはじめ,音楽というか音声をコミュニケーションの手段に用いる行動は,何も人間に限った話ではない。

ペットの犬や猫だって,餌をねだる時と,外敵を威嚇する場合では,全く違った鳴き声を使い分けることで,豊かで多様な表現を用いている。

類人猿,そして初期人類に至っては,言葉と音楽が未分化の状態であったのだろうと思われる。
音楽とも歌とも言語ともつかないもの,例えばうなり声や赤ん坊をあやす声,仲間に危険の察知を伝える声などのようなもの。

今読んでいる,ミズン(人類学者)「歌うネアンデルタール〜音楽と言語に見るヒトの進化」や,ジョルダーニア(音楽学)「人間はなぜ歌うのか?〜人類の進化における「うた」の起源」など,人類史と音楽についての書籍においても,やはり,声とも歌とも言語ともつかぬものから,やがて言語と音楽が枝分れした,との見解が展開されている。

情報伝達に特化したコミュニケーションとして言語が枝分かれし,認知的流動性(考え方や知識の蓄えをまとめ新たな思考を生み出す能力)を育くむ。
一方,感情表出に特化したコミュニケーションが音楽になったというもの。

例えば,餌のありか,外敵が向かってくる方向など,生命の危機に直結した「情報」は,より正確に伝達される必要がある。
一方,情熱的な求愛や赤ん坊をあやす声,仲間同士で一致団結し,狩りや戦闘に挑むかけ声などは,感情に強く訴えかけることで,仲間同士の帰属意識や連帯感を高揚させるのに,効果的だったろうと思われる。

また,言葉には,意思の伝達に加え,概念や思想,「今,自分は何を思い,どう考えているのか」といった抽象的なものも,一度言葉に変換してみることで,客観的に自己認識できるという機能もある。

より正確な情報を伝達し,複雑な思考を育む人類の進化の過程において,ヒトはコミュニケーションの主な役割を,最初は未分化,一体のものであった音楽と言葉のうち,言葉にその役割を担わせたのだ。

「言語の発明,言葉の形成,思考の分析が邪魔をしなければ,人の霊魂と霊魂は交信していたかもしれない。その手段の例としてただ一つあげられるのが,音楽なのではないだろうか。しかし人類は別の方向に進化したのだ」〜プルースト「失われた時を求めて」

この「音楽」と「言葉」の関係については,今ライフワークとして進めている,私自身の音楽論の中でも,主要な一節となる予定。

しかし,今回の作業を通じて強く感じたことは,言葉は,文字という視覚のデータだけではなく,口にして,声に歌にすることで,より「生きてくる」ということ。

例えば,今私が綴っているこの日記の「言葉」も,多くの皆さんには「視覚」として認識できる形で伝達されている。

しかし,言葉には,見る「文字」としての役割だけではなく,口にしてみることで,話し言葉,あるいはうたの形で,視覚だけではなく,「聴覚」にも訴えることにより,単なる「情報」を超えて,生き生きとした豊かなエモーショナルな感情もうたに乗せ,伝達する,文字の機能だけでは不十分な役割も果たすことができる。

「言葉」に生き生きとしたエネルギーや生命力,推進力を与え,その言葉を「文字」から「声」や「うた」に変えていくもの,それが音楽のもつ力なのだとも思う。

今回の作曲作業を通して,詩という「言葉」の世界から,言葉と音楽が未分化の,本来の生き生きとした情動を伝える世界にまで広げることができたとしたら,とても嬉しく思う(^^

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