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2014年10月15日23:58

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嵐の前の焼き物三昧

東京は夜から雨風ともに強まり、夜間は暴風雨となるでしょう・・・・と天気予報がいうので、なら昼間早いうちは大丈夫なんでしょう?とばかりに、月曜の祝日は、朝まともな時間から上野に出かけた。
東京国立博物館(東博)で、「東アジアの華 陶磁名品展」という特別展をやっているからだ。
これは、翡翠の白菜でみんなが大騒ぎした台北故宮博物院などとは違い、別料金の設定されていない特集展示。
日中韓それぞれの国立博物館が持っているとっときの作品を同じ数ずつ並べて、東アジアのやきもののすばらしさをお見せしましょう、という趣旨の展覧会だ。
3カ国合同企画なので、恐らくこの後、ソウルと北京の国立博物館で巡回展示をやるのだと思う。

「東アジアの華 陶磁名品展は、博物館本館の1部屋を使っただけの、全部でたった45作品の特集展示ではあったけれど、本館の別の何部屋かではまた別のテーマで陶磁器が通常展示され、隣にある東洋館でも「特集 日本人が愛した官窯青磁」という展示もやっている。
東博に来た時はいつも、東洋館のガンダーラ像や、法隆寺宝物館の菩薩立像を舐めるように観る私だが、この日ばかりは、ヨッシャ今日はいちんち焼きもの三昧としゃれこうべ!ってな具合に、珍しく計画性のある美術鑑賞をいたしてしまったのだ。
だって台風なんだもの。

展示室を色をつけた3つのコーナーに分けて、各国の作品15個ずつを並べているから、非常に分かりやすい展示の仕方だった。
韓国のエースは、もちろん高麗青磁。
私は朝鮮の素朴さのまさった繊細な工芸が大好きだが、この日観た高麗青磁も、品のある中に古拙な味わいがあり、日中に挟まれてやや印象は薄いけれど、親しみのもてるものだった。
中国は、当然のごとく唐三彩を中心に持ってくる。
もちろん、ふっくらとした唐の女性俑もニコニコとして立っているし、胡人俑(西域男性の人形)のきりりとした立ち姿も見事。
そして、豪華な馬具をつけた三彩の馬2頭はさすがの存在感。
皆さん知ってると思いますがこれが中華です、と言わんばかりの堂々たる展示。

そして日本。
これがいきなり、縄文の火焔式土器を持ってくるのですよ。
なんたる裏技。
学芸員のニヤニヤが目に浮かぶようだ。
こんなの観たら、岡本太郎だけでなく、世界中の人がびっくりしちゃうよね。
それからやおら、シックな秋草文だの、華やかな牡丹の花を描いた磁気だの、ぐにゃりと曲がった織部だのを投げてよこす。
うんわ、うんわ、日本の焼き物やっぱ凄いわ。
そう思いながら眺めているうち、ついに一等参ったのは、「ムキ栗」という銘の付いた黒い小振りな四角い楽茶碗。
これは一生忘れられない。
「ムキ」が片仮名なのが、もう堪りません。
興味のある方は、「文化遺産オンライン」というので見られるので検索してみてください。

その他にも、「黄釉牡丹唐草文広口壷」の、内の釉薬の、優しく、いくら触ってもいいですよという親しみのある色合い、「色絵月梅図茶壺」の黒く描かれた月(、そしてその月の真下に、うっすらと縦に細く光る虹のプリズムを発見したのだが、これを知っているのはきっと世界で私一人に違いない!!)、そうした美の多彩な姿に、時間を忘れて見入ってしまう。
大陸の堆積した歴史と技の美、半島の洗練と古拙、そして我が島国の、神も仏もあるにはあるが、私はこれが美しいと思います、といった縦横無尽の美。
やっぱり自分は島国の民なんだなと、改めて実感する。
(もしソウルや北京で同じ展示を観たら、一体どのように感じるだろうか。)


ため息をつきながら展示室を出て、今度は本館の他の部屋にある焼き物を眺めてまわる。
茶道具の部屋、調度品、「唐物」の特集展示(禾目天目や龍泉窯の花生けが素晴らしい!)、そして陶磁の部屋。
来月いよいよ能を観に行くので、能装束の部屋も勉強がてら覗くと、『松風』に使われる衣装や面が展示してあった。
(私が観に行くのは『井筒』だが、ともに夢幻能というジャンルの演目であるらしい。)


ここで一服。
アジアにフォーカスしたイベントにちなんで東洋館の前に出店している数台のキッチンカーの中から、ルーロー飯というのを選び、作ってもらう間、店主とあいにくのお天気ですね〜と雑談していると、「そこは何やってるんですか?」と聞かれる。
何って・・・ああ、あそこに幕が出てますけど、中国と韓国から焼き物持ってきて展示してるんですよ、と言うと、「ただ並べてるんですか?」と店主。
ただ並べてる・・・っていってもねぇ、まあ、博物館ですから、としか答えようがない。
すると、「僕らはいろんな会場に行きますけど、ずっと車の中にいるので、周囲のこと何にも知らないんですよ」と云う。
まぁそうだろうな。
商売って言うのはそういうもんだ。
例えば埼玉スタジアムにもよく出店するが、試合の結果なんか全くわからないという。
それにしても、国立博物館の敷地に期間限定で店を出して、そこが博物館であること、そこには「何かが並んでいるらしい」という認識だけで彼らが去っていくというのは、ちょっと淋しいな。
ミュージアムに頻繁に足を運ぶ人種と云うのはそう多くないのが現実で、学校の授業の一環で連れてこられて以来一度もこの種の施設に来たことがないという人の方が多いのかもしれない、と改めて思った。
彼らの意識の問題もあるだろうし、博物館が、もっと愉しい、普通の人が当たり前に集まって何かを感じて帰ってゆくという場には、まだ全くなっていないということだろう。


さて、次はいよいよ東洋館に足を踏み入れ、「特集 日本人が愛した官窯青磁」と題した特集コーナーに向かう。
今日は東洋館はあっさり観て、雨が本格的になる前に家に帰ろうと思っていたが、なんだかんだとひっかかり、14時からの、学芸員によるミュージアムトークの時間が迫ってきてしまった。
これに背を向けるのももったいないし、ちょっとだけ聞いて、ありきたりな説明だったら途中で帰ろうと思ったのだが、あんなにひっそりとしていた東博に、ここだけ60人くらいの人が詰めかけてきた。
このミュージアムトークは、わずか4つの展示コーナーに並べられた青磁を中心に、別の展示室にある東南アジアや朝鮮の青磁と比較しながら、日本人が独自に見いだした青磁の美、中国や韓国にはない磁器の精緻な分類(「どれがより美しいか」という美の厳しいランク付け!)など、「本場」大陸から半島を経て、この島国に渡ってきた青磁を、我々がどう愛でてきたのかを検証し紹介するという、かなり高度な内容のものだった。
それを説明するのは、三笠景子氏という、まだ30代半ばの学芸員。
根津美術館で修行をしたらしい。
本人も非常に美しい人だったが(サッカーヲタクのプリンセス、高円宮妃も若い頃はあんな感じだったかもしれない)、本当に美しい物は何か、AとBではどう美しさに違いがあるのか、創る側にとっての美のあとで、見る側が作り出す美、所有する者が付与する新たな価値というものがあるのだということを、館内を1時間かけて歩き回りながら、情熱的に解説してくれた。
米色青磁、東窯、修内司など、全く知らない言葉を始めて聞いて難しい話ではあったけれど、すこぶる感動的な1時間であった。

この「日本人が愛した官窯青磁」の特集展示はその日が最終日だったが、「東アジアの華 陶磁名品展」は11月24日までやっている。
今週いよいよ始まった国宝展をご覧になる方は、ぜひついでに、A3アジアカップ・・いや違った、日中韓の焼き物の競演を観ていってほしいと思う。
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1678


東博から帰ってきても、キッチンカー店主の「ただ並べてるんですか」という発言が忘れられない。
結局は個人の問題なのかもしれないけれど、そもそも博物館がどういうところか、というのは、もっとしっかり人々に知られていてもいいと思うのだ。
あの店は、埼玉スタジアムにも頻繁に出店するらしい。
普段はステーキとかハンバーグ丼を出しているらしいが、ルーロー飯がとても美味しかったので、今度行ったら探してみよう。

11月にナビスコカップの決勝でも店を出すと言っていたが、へぇぇ〜ナビスコカップなんて、まだやってたのか。
ちっとも知らなかったよ。(棒読み)


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