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2021年10月03日08:57

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小説イタリア・ルネサンス3ローマ[読書日記850]

題名:小説イタリア・ルネサンス3ローマ
著者:塩野 七生(しおの・ななみ)
新潮文庫
価格:1,000円+税(令和2年12月 発行)
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塩野七生さんのルネサンス期を舞台にした小説、3巻目です。

裏表紙の惹句を引用します。
“オリンピアの故郷ローマにたどり着いたマルコはシスティーナ礼拝堂
 の天井画を完成させたミケランジェロの知遇を得たり、古代の遺跡を
 めぐる日々を楽しむ。
 オリンピアの悲しい過去を知るが、ついに立場を越えた結婚を決意す
 るものの、ヴェネツィアとトルコの関係が風雲急を告げ、二人の運命
 はふたたび歴史の波に翻弄されていくのだった。
 華麗なるルネサンス物語第3巻。『黄金のローマ』改題”

本書でも、1,2巻と同様に当時の制度や逸話について蘊蓄を述べて、読者を小説の世界に引き込む手法があり、小説に厚みを持たせています。2つ引用します。
→は感想です。

1.
“とはいっても、(ローマ法王は)やはり世俗の君主とはちがうのだ。フランスやスペイン、イギリスの王たちのように、世襲の君主ではない。
 コンクラーベと呼ばれる枢機卿会議で選出されて法王の位に就くのだが、死ぬまでそれを保持することは許されても、世襲にしてしまうことは許されていない。法王が死ぬたびに、コンクラーベは開かれるのである。そして、コンクラーベで選出されるには、国籍も出自も無関係だった”(25p)
→2005年だったと思いますが、当時のヨハネ・パウロ二世の逝去に伴い、ヴァチカン共和国でコンクラーベを行ないました。観光客だった私はコンクラーベの開催によって、システィーナ礼拝堂の見学ができなかったことを思い出しました。

2.
“ヴェネツィア共和国が、同時代の他国に比べれば比較にならないほど長期にわたって動脈硬化現象に陥るのを防げたのは、社会の多くの分野での敗者復活戦のシステムが機能していたからである。これはヴェネツィア社会の長期にわたる安定に、大変な効果をもたらした制度であった”(134p)
→一度失敗した人間も復活戦の機会があるというのは、大切なことだと思います。日本は敗者復活戦が無いに等しいのではないかと危惧しています。

手法(その2)としては、ローマの街並みの詳細な描写も実際に起きた事であるかのように感じさせる効果があります。2つ引用します。

1.
“(目的に家は)ファルネーゼ宮殿とは眼と鼻の先だから、従僕も連れずに一人で行く。小路を抜けてジュリア通りに出てまもなく、ファルネーゼ宮殿が右前方に立ちふさがってくるのだが、そこは高い石塀に囲まれた庭園で、宮殿の正面は反対側にあり。正面入り口にに向かうには、宮殿にそう小路を抜けて広場に出なければならない。(略)
宮殿の正面に開けたファルネーゼ広場には、正面入り口に向かって右と左に、巨大な石造の浴槽が置かれている。カラカラ広場の浴場の遺跡から運んできたものだというから、古代ローマ時代の遺物にちがいない”(66p)
→ファルネーゼ宮殿、カラカラ広場といった言葉だけでローマ通には情景が浮かぶに違いありません。

2.
“アッピア街道は当時は主要道路であったから、人の往来は激しかったにちがいない。
古代の人々が書き残したものを読んでいると、街道沿いには一日の工程ごとに旅宿街があるし、それ以外にもローマの上流階級に属する人たちの別荘が置かったということがわかる”(131p)
→アッピア街道はローマ時代の高架水道の遺跡が近くにあり、今も観光地ですね。

最後に、当時のローマ法王ジュリオ二世とミケランジェロに関するエピソードを抜き書きします。
“そのようなあるとき、同席していた一人の司教が、二人(法王ジュリオ二世とミケランジェロ)の間をとりなすつもりでこう言った。
「法王猊下(げいか)、この者どものできることは絵筆はのみをふるうことだけで、あとは無知そのものの成り上がりでございますゆえ、お許しになって……」
かっとなった法王は、司教に最後まで言わせなかった。
「馬鹿者、成り上がりはおまえのほうだ。出て行け!」”(72p)
→芸術家に対する尊敬の念が伝わってくる、良い逸話ですね。

1のヴェネツィア編、2のフィレンツェ編では歴史が前面に描写されていましたが、本作では人間ドラマも1,2巻以上に書き込まれていました。
4巻を読むのが楽しみです。

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塩野 七生(しおの・ななみ)
1937年7月7日、東京生れ。学習院大学文学部哲学科卒業後、イタリアに遊学。
'68年に執筆活動を開始し、「ルネサンスの女たち」を「中央公論」誌に発表。
初めての書下ろし長編『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』により1970年度毎日出版文化賞を受賞。この年からイタリアに住む。
'82年、『海の都の物語』によりサントリー学芸賞。'83年、菊池寛賞。'92年より、ローマ帝国興亡の歴史を描く「ローマ人の物語」にとりくむ(2006 年に完結)。
'93年、『ローマ人の物語I』により新潮学芸賞。'99年、司馬遼太郎賞。2002年、イタリア政府より国家功労勲章を授与される。'07年、文化功労者に選ばれる。

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