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2021年09月19日19:39

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上を向いてアルコール[読書日記848]

題名:上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白著者:小田嶋 隆(おだじま・たかし)
出版:ミシマ社
価格:1,500円+税(2018年5月 初版第5刷)
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コラムニスト小田嶋隆さんがアルコール中毒を克服した経験を語ったエッセイです。
ユーモラスなタイトルですし、文章もウィットに富んでいますが、内容は極めて真面目です。

帯の惹句を引用します。
“「50で人格崩壊、60で死ぬ」。医者から宣告を受けて20年―なぜ、オレだけが脱け出せたのか?
 「その後」に待ち受けていた世界はいかに??300万のアル中予備軍たちと、何かに依存しているすべての人へ。
 壮絶!なのに抱腹絶倒。
 何かに依存しているすべての人へ”

目次は次の通りです。

 告白─ 「まえがき」に代えて
 一日目 アル中に理由なし
 二日目 オレはアル中じゃない
  コラム 酒と文章1
 三日目 そして金と人が去った
 四日目 酒と創作
  コラム 酒と文章2
 五日目 「五〇で人格崩壊、六〇で死ぬ」
 六日目 飲まない生活
 七日目 アル中予備軍たちへ
  短編 ヨシュア君のこと
 八日目 アルコール依存症に代わる新たな脅威
 告白を終えて

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印象に残った文章を引用します。

【コラム 酒と文章1】から。
“失意や失敗は、時に、文章に渋みを付け加えてくれる。
 とはいえ、失敗の仕方については、よくよく考えなければならない。
 失敗は成功の母のような顔をしているが、たいていの場合、別の失敗の愛人であり、さらに別の失敗の母親になるものだからだ”(61p)

【四日目 酒と創作】《ゴルフができない身体になってしまった》から。
“アル中という病名で直接に死ぬ例っていうのは、実はあんまりありません。
 だいたい肝硬変とか、大腿骨頭壊死とか、そういう言い方で新聞報道されますよね。美空ひばりさんの大腿骨頭壊死は、事実上アル中の別名みたいなもんでしょう。
 私もあのまま飲んでいたら、五十手前ぐらいで肝臓とかでどうにかなっていた可能性があると思います”(85p)

【四日目 酒と創作】《クリエイターは破滅型の無頼漢であってほしいという願望》から。
“ヘミングウェイが向こうでどう言われているかあんまり知らないですけど、日本の風土には大酒飲みのクリエイターを一種神聖視するふうがありますよね。それは明らかにどうかしていると思います。
 「小説家なんだから、それは酒に逃げたいときもあるでしょう」みたいな言い方で免罪されたりしてるけど、そんなわけはない”(91p)

【五日目 「五〇で人格崩壊、六〇で死ぬ」】《アル中、アルコール依存症、アルコホリック》から。
“その医者は前述の田中先生といって、久里浜にあるアルコール依存の治療では日本で一番有名な病院で働いていた人でした。
 ご本人がおっしゃるには、久里浜で一〇年以上働いて、さすがにもう酔っ払いを診るのが嫌になった。それで、自分で心療内科のクリニックを開いたということでした。
 なので、「基本的に私は、アル中は診ないよ」と言ってましたね。ちなみに先生が「アル中」という言葉を使うのは、「アルコール依存症」という言い方はごまかしだから、だそうです。アル中はアル中だよ、と(笑)”(110p)

【六日目 飲まない生活】《「アメリカに行けば」と「どうせ死んじゃうんだし」》から。
“二〇代の前半ぐらいまでのころは、アメリカという国が私にとっての抜け穴でした。あくまでも頭のなかの考え方
の設定の話ではありあすけど。
 若い人間は、誰であれ、多かれ少なかれ、何かうまくいってないとか、誰かに抑圧されているとか、そのときどきの個人的な問題に直面しています。若いころは、その問題を「オレは日本にいるからダメなんだ。世界のどこかにアメリカという国があって、そこに行けば自分は、存分に自分らしい人間として羽ばたくことができる」という物語を設定することで、アタマの外に追いやることができた。
アメリカは、六〇〜七〇年代の若い人間にとってそういう国だった”(145p)

目次の「一日目」から「七日目」までは、アル中の話ですが、「八日目 アルコール依存症に代わる新たな脅威」は違います。
“新たな脅威”とは何か?が分かる文章を2つ引用します。

《つぶすべき時間がなくなった》
“今二〇代の連中は、ケータイの通話料だとかパソコン関連のプロバイダ料金やら各種の会員手数料みたいな、その手の電子的コミュニケーションに対して、月々でだいたい二万円ぐらいの固定費を支出している。それってわれわれが二〇代だったころには一円もかかっていなかったお金です。
 これはもちろん、おカネだけの問題じゃなくて、むしろその対して生産性のない(SNSやスマホのやりとりのような)コミュニケーションに費やしている時間と精神的な労力がとんでもないんではないかと私は思っています”(189p)

《余暇をすべて吸い取られる》
“一人でいる時間、たとえば電車でおよそ景色を見なくなる。
 景色を見る必要があるのかって真面目に問われると、実のところそんな必要はないかもしれないんですけど、でもそういう一分二分の空き時間の過ごし方がスマホを見る以外に選択不能になっていくことの問題って、お酒を飲んじゃった人間が、お酒に全部余暇を奪われちゃうっていうことと近い気がするんですね、経験上。
 酒の場合、身体を壊すとかみたいなことももちろんあるだけど、働いていない時間のすべてを酒に吸い取られる、という部分が、実はもっとも大きな損害なんですね。とすると、それは実はスマホでも同じことだったりします。
 肝臓は壊さないでも、脳がゆっくり壊されるんだとしたら、そりゃやっぱりヤバいだろってことです”(199p)

「一日目」から「七日目」までは笑いながら読んでいたのですが、「八日目 アルコール依存症に代わる新たな脅威」は急に自分事として真剣に読みました。

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小田嶋 隆(おだじま・たかし)
1956年東京赤羽生まれ。幼稚園中退。早稲田大学卒業。
一年足らずの食品メーカー営業マン勤務などを経て、テクニカルライターの草分けとなる。
国内では稀有となったコラムニストの一人。
著書に『小田嶋隆のコラム道』(ミシマ社)、『ポエムに万歳!』(新潮文庫)、『地雷を踏む勇気』(技術評論社)、『超・反知性主義入門』(日経BP社)、『ザ・コラム』(昭文社)な多数。
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