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2021年05月06日15:15

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「アンブレイカブル」「スター」「曲亭の家」「化け者心中」

「アンブレイカブル」
柳広司著。特高による文学者への態度が大戦初期から末期になるにつれ監視から弾圧になる歴史を追う4編の短編。『蟹工船』の小林多喜二、反戦川柳作家・鶴彬、編集者・和田喜太郎。哲学者・三木清が俎上に。特高のクロサキを狂言回し権力を傘にきて醜悪になる組織の姿も描く。支配者の凡庸で無自覚な悪意。被支配者は嫉妬や無知で陥れあう。いつの間にか全員が鎖に繋がれる。その章の主人公が文学者に直接関わるのは最後の話のみ。文学者本人を描くのではなく彼らを取り巻く状況を調査し考察する形。
1話から3話のクロサキは政府をバックに背負う不気味な存在。しかし彼が主人公の4話では実は数字とノルマに追われるただの官僚であることがわかる。英映画「ハンナアーレント」を思い出す。想像力なく従事する人間。それが支配級にいる不気味さ。
天皇が空襲の跡を視察に行くので迷惑がりつつお膳立てするエピソード。官僚には迷惑でも直接見ることが意味あったかも。天皇や側近が軍の目をかいくぐり玉音放送を命懸けで行ったドキュメンタリーを思い出す。治安維持法が先に行くほど当初の目論見と外れて運営がおかしな方向にいったというドキュメンタリーもあった。色々思い出すところ。「アンブレイカブル」の題名は折れない文学者のことだと思うけど。軍部は解散でも官僚は残り。特高は解散して治安維持法が停止しても、組織は名前を変えて存続し、治安維持法も類似の運営が可能な法律が作られている。アンブレイカブルはこっちかなと捻くれた読書感想文

「スター」
朝井リョウ著。大学生の頃に共同監督で映画祭の新人賞を受賞した2人。片方は名監督の下で修行、片方はYoutubeで作品発信するが、それぞれ迷い悩む。周囲の登場人物の語りで立場によって違い、正解のない現在のクリエイターのあり方を考察する。特にYoutubeについて詳しく調べてる感。名監督の先輩弟子、大学の後輩、動画の発注先、職場の上司、彼女など問答ではなく一方的な独白に近い。プロアマ混合する現代の映像文化で、自分が何に価値を置くかはみな違う。また、それらは比較できないものであるということ。

「曲亭の家」西條奈加
曲亭馬琴の息子に嫁いだ女性の人生の話。夫との間に愛はなく姑はうるさく馬琴は気難しい、しかし子宝には恵まれる。降りかかる災難にもタフにやるべきことを淡々とこなす。割とドライな主人公なのが現代的かな。嫁ぐとは当時の女性にとってその家に就職することと言えるのかもしれない。

「化け者心中」
蝉谷めぐ実著。江戸時代、足を失った歌舞伎の名女形と鳥屋の男は中村座から、役者を食って成り代わった鬼を探すよう依頼される。話を聞くうち女形達の嫉妬や劣等感が暴かれる。鬼は誰なのか。また主人公達の迷いと悩みも解決。女性作家らしい恋愛物でもあり

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