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2017年11月05日21:37

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文庫解説ワンダーランド[読書日記651]

題名:文庫解説ワンダーランド
著者:斎藤 美奈子(さいとう・みなこ)
出版:岩波新書
価格:840円+税(2017年1月 第1刷発行)
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マイミクさんが紹介していた本です。
名作やベストセラーの宝庫である文庫本の「解説」を俎上にのせて切りまくった、大変面白い本でした。

どんな風に面白いのか、小林秀雄の著書『Xへの手紙』を取り上げた部分を引用します。
“手紙の形式をとった自己表白ともいうべき作品。もってまわった自意識過剰な書きっぷり。
 愚痴とも懺悔ともつかぬ弁明。読む人をイラッとさせるという意味で、これはある意味秀逸な一編だ。
 女性に対する視線がまた、甘えと侮蔑が混じって感じ悪いんだ”(157p)

同じく小林秀雄の『モオツァルト・無常という事』も次のように一刀両断。
“小林秀雄はかつて「試験に出る評論文」の代表選手だったのだ。試験に出る評論文の条件は名文であることではない。「論旨がわかりにくいこと」だ。
 論旨がすぐわかったら試験にならないからね”(148p)

著者が小林秀雄に何か恨みでもあるかと思ったら、さにあらず。
著者は『文章読本さん江』で第1回小林秀雄賞(2002年)を受賞しています。
賞をもらったら多少は遠慮するものですが、この見事な捌き方! 感嘆しました。

そのほか、痛快だった箇所を2つ引用します。

1.バーネット『小公女』を取り上げた章から、曾野綾子の説教臭さについて。
“(曾野綾子の『小公女』の解説では)貧しさは自己責任論に還元され、植民地主義は半ば肯定され、物語の美質はなべて(今の日本人が失ってしまった実に多くのみごとな人の心)と解釈される。
 『小公女』までダシにするんだもんな。困ったもんだな、曾野綾子”(94p)

2.川端康成『伊豆の踊子』『雪国』を取り上げた章から、古色蒼然とした評論への批判。
“三島由紀夫や伊藤整のようなタルい評論は、今日の文芸批評界ではほとんど目にしなくなった(そうでもないか)。
 いまやほとんど骨董品。その歴史的価値は認めるも、古色蒼然たる解説の前で途方に暮れる読者こそ災難だ。”(29p) 

斎藤美奈子さんの解説は『米原万里ベストエッセイ2』で読んだ時から印象深いものでしたが、ますますファンになりました。

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斎藤 美奈子(さいとう・みなこ)
1956年 新潟県生まれ。児童書などの編集者を経て、現在――文芸評論家。
著書――『妊娠小説』『紅一点論』『文章読本さん江』(以上、ちくま文庫)、
『文壇アイドル論』『モダンガール論』(以上、文春文庫)、『戦下のレシピ』
(岩波現代文庫)、『冠婚葬祭のひみつ』(岩波新書)、『名作うしろ読み』
(中公文庫)、『名作うしろ読みプレミアム』(中央公論新社)、『ニッポン沈没』
(筑摩書房)、『学校が教えないほんとうの政治の話』(ちくまプリマー新書)、
   ほか多数。『文章読本さん江』で第1回小林秀雄賞受賞。

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