mixiユーザー(id:1795980)

2017年07月15日22:00

343 view

発達障害[読書日記634]

題名:発達障害
著者:岩波 明(いわなみ・あきら)
出版:文春新書
価格:820円+税(2017年5月 第5刷)
----------
新聞の読書欄で紹介されていた本です。

表紙裏の惹句を引用して内容を紹介しましょう。
“人の気持ちがわからない、空気が読めない、同じ失敗を繰り返す……それは発達障害かも知れません。
日本の医学界きっての専門家が、疾患の種類、豊富な治療事例を懇切丁寧に解説します”

目次を紹介します。
 はじめに なぜあの人は「空気が読めない」のか?
 第1章 ASD(自閉症スペクトラム障害)
 第2章 ADHD(注意欠如多動性障害)
 第3章 ASDとADHDの共通点と相違点
 第4章 映像記憶、共感覚、学習障害
 第5章 天才
 第6章 アスペルガー症候群への誤解はなぜ広がったか
 第7章 発達障害と犯罪
 第8章 発達障害を社会に受け入れるには
 おわりに 発達障害とどう向き合うか

新書なので、一般の人にも分かりやすいように専門用語は最小限度しか使っていませんが、「ASD」と「ADHD」は覚えておくべき単語です。
それぞれの日本語訳は次のようになっています。
“本書では、成人期の発達障害の代表的な疾患であるアスペルガー症候群などの「自閉症スペクトラム障害(ASD)」および「注意欠如多動性障害(ADHD)」を主に扱っている”(12p)
(ASDとADHDの判断基準[アメリカ精神医学会の基準]を末尾《補足》に引用したので興味のある方はご覧ください。)

ただし、「注意欠如多動性障害(ADHD)」を字面のとおりに読むと、全く注意力が無いようですが違います。
“ひと言付け加えると、ADHDの人は、注意力が常に散漫なわけではない。興味を感じる特定の対象に対しては、むしろ過剰な注意、集中力が向けられることもある。
 好きな事柄には、徹夜してでも取り組むケースも多い”(65p)
なかなか、一筋縄ではいきませんね。

著者は「発達障害」という言葉が一般的になってきたわりに、正しく理解されていないことを嘆いています。
理解不足は医者も例外ではなく、精神医以外の医者でも間違った認識を持つ人が多いそうです。

興味を惹いたのは、性別の発症率です。
ASDについては、“ASDの出現頻度は1000人に5人程度で男子に多い”(40p)とあり、ADHDについては“性別では、男子のADHD発症率は女子に比べて高く、男女比は2対1〜9対1と報告されている”(71p)とこちらも男性の方が多い統計結果です。
福岡伸一さんの名著に『できそこないの男たち』がありますが、そのタイトルを思いましました。

話は変わりますが、発達障害によって社会的に活躍できなかった人たちへのフォローも徐々に進んでいるようです。
日本での対応は次のようになっています。
“諸外国と比較すると遅まきながらではあるが、近年、わが国においても、知的障害とは別に、ASDやADHDなどの発達障害に対する公的な支援策が設けられるようになった。
 国の取り組みとして、2005年4月に「発達障害者支援法」が施行された(16年に一部改正)”(224p)

「発達障害」という言葉が一般的になってきましたが、医学的に正確な情報は少ないようです。
この本は現時点(2017年)での「発達障害」の定義や対処方法を記した入門書だと思いました。

----------
《補足》
ASDとADHDの判断基準(アメリカ精神医学会の基準)
自閉症スペクトラム障害(ASD):
“以下のA,B,C,Dを満たしていること
 A.社会的コミュニヶ―ションおよび相互関係における持続的障害(以下の3点で示される)
  1)社会的・情緒的な相互関係の障害
  2)他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーションの障害
  3)年齢相応の対人間関係の発達や維持の障害
 B.限定された反復する様式の行動、興味、活動(以下の2点以上の特徴で示される)
  1)常同的で反復的な運動操作や物体の使用、あるいは話し方
  2)同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン
  3)集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある
  4)感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する普通以上の関心
 C.症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある
 D.症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている”(42p)

注意欠如多動性障害(ADHD):
“A1.以下の不注意症状が6つ(17歳以上では5つ)以上あり、6ヵ月以上にわたって持続している。
a)細やかな注意ができず、ケアレスミスをしやすい。 
  b)注意を持続することが困難
c)上の空や注意散漫で、話をきちんと聞けないように見える 
  d)指示に従えず、宿題などの課題を果たせない
e)課題や活動を整理することができない 
  f)精神的努力の持続が必要な課題を嫌う
g)課題や活動に必要なものを忘れがちである 
  h)外部からの刺激で注意散漫になりやすい
i)日々の活動を忘れがちである
A2.以下の多動性/衝動性の症状が6つ(17歳以上では5つ)以上あり、6ヵ月以上にわたって持続している。
a)着席中に、手足をもじもじしたり、そわそわした動きをする 
  b)着席が期待されている場面で離席する
c)不適切な状況で走り回ったりよじ登ったりする 
  d)静かに遊んだり余暇を過ごすことができない
e)衝動に駆られて突き動かされるような感じがして、じっとしていることができない 
  f)しゃべりすぎる
g)質問が終わる前にうっかり答え始める 
  h)順番待ちが苦手である
i)他の人の邪魔をしたり、割り込んだりする
B.不注意または多動性/衝動性の症状のうちいくつかが、12歳になる以前から存在していた
C.不注意または多動性/衝動性の症状のうちいくつかが、2つ以上の状況(例:家庭、学校、職場、友人や
  親戚といる時、その他活動中)において存在する
D.これらの症状が、社会的、学業的、または職業的機能を損なわせている、またはその質を低下させている
  という明確な証拠がある
E.その症状は、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中のみ起こるものではなく、他の精神疾患では
  うまく説明されない”(57p)

---------- ----------
岩波 明(いわなみ・あきら)
昭和大学医学部精神医学講座主任教授(医学博士)。
1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院などで臨床経験を積む。
東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学精神医学教室准教授などを経て、2012年より現職。
2015年より同大学附属烏山病院長を兼任、ADHD専門外来を担当。
精神疾患の認知機能障害、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。
著書に『狂気という隣人 精神科医の現場報告』「心に狂いが生じるとき 精神科医の症例報告」(以上、新潮文庫)、
『大人のADHD もっとも身近な発達障害』(ちくま新書)ほか。

1 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年07月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031