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2023年12月24日09:15

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国商 最後のフィクサー葛西敬之[読書日記966]

題名:国商 最後のフィクサー葛西敬之
著者:森 功(もり・いさお)
出版:講談社
価格:790円+税(2020年12月 第1刷)
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マイミクさんが紹介していたノンフィクションを読みました。
最後のフィクサーと呼ばれた葛西敬之(かさい・よしゆき)氏の実像に迫るルポルタージュです。

【はじめに】から、本書が執筆された理由を抜き書きします。
“この10年のあいだ、葛西と安倍の二人は日本の中心にいて、この国を動かしてきた。それは疑いようのない事実だろう。
一国の首相が「憂国の士」と敬愛してやまない葛西は、財界のなかでも類を見ない愛国者に違いない。半面、日本という国を舞台にビジネスを展開し、政府や政策を操ろうとしてきた。政策の表舞台に立たない黒幕だけにその実像はほとんど伝えられなかった。最後のフィクサーと呼ばれる。葛西敬之の知られざる素顔に迫る。”(13p)

目次は次の通りです。
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 はじめに
 序 章 国策づくり
 第一章 鉄道人生の原点
 第二章 国鉄改革三人組それぞれの闘い
 第三章 「革マル」松崎明との蜜月時代
 第四章 動労切り
 第五章 ドル箱「東海道新幹線」の飛躍
 第六章 安倍政権に送り込んだ「官邸官僚」たち
 第七章 首相官邸と通じたメディア支配
 第八章 美しい国づくりを目指した国家観
 第九章 リニア新幹線実現への執念
 第十章 「最後の夢」リニア計画に垂れ込める暗雲
 第十一章 覚悟の死
 終 章  国益とビジネスの結合
 おわりに

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印象に残った文章を引用します。

【序 章 国策づくり】《ド・ゴール哲学と瀬島龍三》から、葛西氏を賞賛する第三者の言葉。
“時事通信社出身の外交評論家、田久保忠衛(ただえ)は葛西のことを手放しでほめる。
 「葛西さんとの出会いは、もう20年ぐらい前だったかな。産経新聞の紙面検証委員会という社外組織のなかに、葛西さんと私がいて、席を隣にしたりして知り合ったのを覚えています。(略)
 私も新聞のことはわかりますが、葛西さんは知識の量と質が違う。普通の人と違っている点は、葛西さんの話が最後に国益と結びつくこと。戦後、財界はもとより政治の世界にも金儲けばかり考える人たちが多くなってきました。葛西さんは今の財界人にはないタイプでしょう」”(29p)
 ⇒一部の人を心酔させる魅力・実力のあった人物なのでしょう。

【第五章 ドル箱「東海道新幹線」の飛躍】《新幹線保有機構を解体した "火砕流" 》から、葛西氏の強引な仕事の進め方について。
“あの頃(1991年頃)の葛西さんは今ほど大物には見られていませんでしたけれど、目的のためには手段を選ばない、というか、非常に合理的な考え方をする。どこに話を持っていけば結論が早いか、キーパーソンを落とせばいい、と考える。それが "葛西流" で、いつしか "火砕流" ともじられるようになりました。上からトップダウンでドーッと、強引にやるからでしょう」”(137p)
 ⇒物事を強引に進める人物はどこにでもいますが、国家規模の事業でそれをやっていいのか、という話ですね。

【第五章 ドル箱「東海道新幹線」の飛躍】《名古屋の葛西では満足できない》から、新幹線技術の海外展開の危うさについて。
“葛西はこの台湾新幹線の成功により、政府や政治との結びつきの必要性を感じたのではないだろうか。もっとも中国に対してはやはり厳しい見方をする。星野が言う。
 「中国へも新幹線を輸出していますが、それは川崎重工が中心にやったんです。川崎重工が新幹線技術をブラックボックスにしないまま中国に提供してしまったと葛西さんは考えています。葛西流に言わせれば、『その結果、中国が新幹線技術を盗んだ』となるんでしょうね。葛西さんは、『JR東海はもはや川崎重工とは契約しない』と切っちゃった。」”
(149p)
 ⇒“ブラックボックスにしないまま中国に提供してしまったと葛西さんは考えています”は微妙な言い回しですね。

【第八章 美しい国づくりを目指した国家観】《「菅さまのNHK」》から、NHKの会長人事に政治が介入したエピソード。
“もっとも外部の有識者がNHKの番組や人事の事情に精通しているわけもない。したがって現実には、総務省の役人が候補者を選び、電話で経営委員にそれを伝えて推薦人になってもらう。そうした会長候補の人選は書類に残さず、もっぱら電話を使ってきた。それは痕跡を残さないためでもある。
 しかし、安倍政権以降はその会長選びについて、NHKや民放放送局を所管する総務省だけでなく、裏の権力者が口を挟んだ。それが「四季の会」のメンバーであり、会を主宰してきた葛西にほかならない。”(211p)
 ⇒政治がNHK会長に政府に都合のよい人物を送り込んだことは週刊誌の報道でも読みました。

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締めくくりに【第八章 美しい国づくりを目指した国家観】《国士か政商か》から、葛西敬之の評価について引用します。
“国の方針や政策をいち早くつかんでビジネスにつなげる事業家たちを政商と呼ぶ。彼らはときに力づくで政治を動かし、事業の利益を貪る。戦後、自民党の結党資金を出した児玉誉士夫や田中角栄と親密だった小佐野賢治といった人物が思い浮かぶ。
 では、葛西敬之はどうか。安倍、菅政権をはじめ、そこで垣間見せてきた影響力を否定する者はいないだろう。もっとも、企業利益や私腹を肥やすために圧力を行使する彼らのようなイメージはない。理由は、これまでの言動が単なる会社経営者と異なり、常に日本の前途を意識していたからであろう。それをもって憂国の士と持ち上げる信奉者も少なくなかった。”(196p)

引用できませんでしたが、【第二章 国鉄改革三人組それぞれの闘い】と【第三章 「革マル」松崎明との蜜月時代】も昭和史のトピックである国鉄民営化の裏側を描写する内容で読みごたえがありました。
葛西敬之本人の実像に迫りながら、日本の政治についても考えさせられた一冊でした。

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森 功(もり・いさお) 
1961年、福岡県生まれ。ノンフィクション作家。
岡山大学文学部卒業後、伊勢新聞社、「週刊新潮」編集部などを経て、2003年に独立。2008年、2009年に2年連続で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞。2018年には『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』『ならずもの 井上雅博伝――ヤフーを作った男』『鬼才 伝説の編集人 齋藤十一』など著書多数。

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