mixiユーザー(id:67124390)

2023年10月01日02:20

81 view

2023年09月のうた 選

小さな土地


小さな土地に彼は立っている
存(あ)るいのちを無と決めつけ
無と決めつけたものを死なせ
骸をさらにころし
跡地には涼しく霧だけがながれている
僕の旧友は
アドルフ・ヒトラーを愛してやまなかった
小さな土地に
幽霊が立っている。



明月


秋もなかばになると
水底にいるようなきもちがする。



ことば


ゆっくりと夜は深けてゆき
けむりのような雲の
はざまを黒ずんでゆく
        ものがある

意味をたがえて遣う
       ことばの透き間を
幽霊のように浮游(ふゆう)する
      ことだまがある。



不安を胸にうつす


不安を胸にうつす
安心ではないこと
ぐらぐら 揺れること
不安を
胸に映す
不安が音楽を奏でている
不安が耳に響く
遠い国のピアノが
不安を奏でている
目がそこに在って
不安をうつしている
不安を打つ
不安を打ちのめす
それが不安を具象化させる
不安は寂しい
不安は懼(おそ)れ
不安は怯える。



星の條々(えだえだ)


ただ夜明けが来るのを 待っているのではない
樹々のねむりを 愛でているのだ。



星の光


水をみている私を
水はみている。



切手


切手を買いに行った
手紙を書こうと思ったわけではない
ただ切手を買って
生きようと思っただけなのだ。



夜露


生れたころへ
ひとは死ぬるのだ。






かなしみを
土にまいたような
小糠雨の後の
よく均された土地に
野菜の種が芽ぐみ
萌えてくれた
何をみても悲しかったのに
何に救われたんだろう
何が救ったんだろう。



いのり


いのりとは息をつめてするものだ
ため息をあつめてもいのりにはならない。



蒼空


空をみつめていると
あそこから雲がうまれる
あれは神が生んだのではない
私が生んだのだ
雲がさびしいのだとすれば
私が淋しいのだ。



繭(ことだま)


夜になると
   凍える

つらいのは
   言葉を失って
   気ばかり冴えるときだ。



いかり


樹々がいかるとき
樹々はゆれてなどいない
樹々は静謐の夜をつらぬいて
いかりくるっているのだ
静寂ほどおそろしい
     いかりはない。



秋深む


炎々と ただ炎々と
季節のはじが焦げている
そんな刻がすぎると
音もなく忍んでくる猫のように
秋はやってくる
秋はそうっとやってきて
さらさらと去ってゆく。



人間


草は怒らないし
ほかの草を憎んだり、
  殺しあったりしない。



オクトーバー・フェスト


ニュース画面の蒼いいろが
ますます蒼くなって
まるで薄れてゆく 徒雲(あだぐも)のように感ずる
ふと 取り返しのつかない悲しみを
口にしてみる
ふと いつか
地震のときに砕けてしまった
ピルスナー・グラスのことを思い出す。






苦しいので
書きはじめたのだった
生きることが
こんなにむつかしいなんて知らなかった。






永いこと咳に苦しんでいた
咳は悲しみの
もっとも烈しい発露
涕いている余裕も
歎いている余裕も無かった。



ひかり


瑞々しかった木の葉が
色づいてゆく
それをひかりと呼びたい私は
哀しいほどにずるいのだ。






森に一歩入(はい)ってしまうと
わかっていたことがわからなくなるかわりに
わからなかったことが わかってくる
森に一歩入ってしまうと 森の深みに胸を打たれる。



悲しみ


わたしは
花に触(さわ)れない。



丘のうえの木のそばの草


丘のうえの木のそばの
草にすわって自殺を考えていると
のっそりやってくるのは
もじゃもじゃな老犬だ
きっとうんこがしたいのだ
さびしいから
秋だから
犬よりひとは救いようがないのだ
われが自殺を考えているとき
犬はうんこをしていた。



悲しみは


悲しみが 怒(いか)らないのであれば
怒りの涙とは 何のための涙なのだろう
怒りが憎しみに変貌し
  花となって炎えるのならば
ぼくは花にはなりたくないし
  炎えたくもない。



雲間のお月


雲間のお月は
目醒めていて
永遠に睡むらない
そのことに思いが及ぶたび悲しくなる。



美しい山々


美しい山々は
もとは人間だった
人間が浄化されてゆき
いくつもの谷あいをぬけ
その霊魂が
山になったのだ。



赤ん坊の名


この子には 未だ名前がない
名前を付けられる前の赤ん坊には
神さまが宿っている

赤ん坊がわらう時
それは
神さまがわらっている時なのだ。



黄泉の月光


黄泉の国にも
月光はあるんだろうか
あるんだとしたなら
何処からのぼり
何処へ沈んでゆくんだろう。


指田悠志
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する