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2023年06月13日19:01

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夕顔

人(夕顔)のけはひ、いとあさましく柔らかに、おほどきて、もの深く重き方はおくれて、ひたぶるに若びたるものから世をまだ知らぬにもあらず。


今週のNHK朝ドラ「らんまん」の週タイトルは「ユウガオ」
夕顔というとまず源氏物語を思い浮かべるが、今日の「らんまん」は源氏物語のエピソードをそれとなく思い起こさせる回だった。

「朝顔、昼顔、夕顔、はどうちがう?」と東大植物学研究室助教授の徳永(田中哲司)に問われ、槙野万太郎(神木隆之介)は「朝顔と昼顔は同じ仲間(ヒルガオ科)ですが夕顔は違う、ウリ科です」と答える。そう夕顔の実は瓜。あのカンピョウになる。
徳永助教授は 「私はユウガオが好きだ…源氏物語に出て来る。私は日本文学が好きなのだ。  貴様には分からんだろうが…」 と(どーせお前は植物バカだから文学なんてわからんだろう)と呟くと、万太郎は「いえ、私も文学が大好きです。特に万葉集の、、」と答え、この句をそらんじる。
「朝顔は 朝露おいて 咲くといへど 夕影にこそ 咲きまさりけり」

こういう誰とでも気の利いた会話のできる教養こそ万太郎の武器だ。
彼は自分の教養を決してひけちらかさない。人の意見を否定しない。男でも女でも金持ちでも貧乏人でもアホでもカシコでも平等に接し差別しない。生家は金持ちの旧家で大事に育てられ神童と言われ(学校に行かずとも)苦労なくやりたいことをやってこられた人だから、よけいに彼のキャラクターが際立つ。

徳永助教授は東大の植物学研究室にはいるけれど元々は文系で文学を志していて挫折、仕方なく田邊教授の口利きでこの研究室にきている。植物の専門知識はあまりない。が、天下の東大の助教授であることが彼の誇りなので、権威主義の権化みたいな人。
だから小学校しか出ていないのに田邊教授(要潤)に気に入られて我がもの顔に研究室に出入りしている万太郎が気に入らない。なんとか追い出したいとさえ思っている。
なのに今日、自分の得意分野、日本文学についての万太郎の受け答えが素晴らしくて一気に彼に好感を持つようになる。
対照的なのが田邊教授(要潤)だ。実にクールで考え方も欧米的。講義が全部英語で自分のやり方に一切の妥協を許さない。自分に利益になることはどんどん取り入れるが、利がないとわかるとすぐに切る。冷徹。万太郎の研究室への出入りを許したのも一見ウェルカムに見えるが実は自分にとって利があったからだ。万太郎たちが作ろうとしている植物雑誌に関しても自分に利がないなら認めないし経費も出さないと言ってのける。「学生の彼らにそこまで負担を負わせるのはかわいそうすぎる」と徳永。
義理と人情に厚くハートウォーミング(日本人的)なのは徳永助教授のほうというわけだ。

それにしても万太郎のいいところはそういったクセのある人たちを実にうまく取り込んで成長していくところだ。それはある意味あけすけで計略がないからだ。
自分の思いに真っ直ぐでブレない(周りが見えない)万太郎は、かなりな頑固者で人とも衝突する。けれど持って生まれた人懐っこさで人の懐に入るのがうまい。天性の人たらしともいえる。
気性の荒い石版印刷所の棟梁(奥田瑛二)や職人たちにもあっという間に溶け込んで、印刷技術を教わることに成功する。「なにものか」に成るため結果が出るまで粘り強く突き進む学者としての素養だけでなく、性格のよさや人たらしという素養もすごい彼の才能だ。だからこそ志を遂げることができたんだろう。天から選ばれしGIFTEDな人だ。


さて、日記のタイトルの「夕顔」に戻る。

源氏物語の「夕顔」の章。乳母の見舞いに行った光源氏が、隣の垣根に咲く夕顔の花に目を留め取りにやらせたところ、邸の住人が和歌で返答する。市井の女にふさわしくない教養に興味を持った源氏は、身分を隠して彼女のもとに通うようになる。あるとき、逢引の舞台として寂れた某院(なにがしのいん)に夕顔を連れ込んだ源氏であったが、深夜に女性の霊が現れて恨み言を言う怪異にあう。夕顔は「私は心細くて影のように消えてしまいそう・・」と訴えるが、その不安が的中し、明け方には息を引き取ってしまう。
夕顔は、三位中将の娘で、頭中将の妻という立場にあったが、その後市井にまぎれて暮らしていた。
性格はおだやかで、万事に控えめで、外見もそれに合わせるように細身でなよなよとして、頼りない。つまり容貌は平凡でもの静かなだけが取りえ。だが、この女性が、源氏や頭中将といった当代一流の、女遊びに長けた男達の目をとらえ、心を惹きつける。
わずか19歳で物の怪にとらわれたような形で急死する悲劇のヒロイン性も夕顔のはかなさを助長する。

円地文子は夕顔の中に「天性の娼婦」性を見ている。瀬戸内寂聴は素直でどんな色にも染まり、飴のように身を曲げる「可愛い女」的な自我のない幼児性を感じている。

万太郎の意中の人、寿恵子(浜辺美波)は夕顔とはイメージが違うが、美しく好奇心旺盛な女性だ。しかし政府高官・高藤雅修(伊礼彼方)にみそめられ、妾になってほしいと請われている。庶民の身分からいえば玉の輿。とはいえ妾は日陰の身であるから夕刻からひっそり咲く夕顔とイメージが重ならないでもない。
高貴な出身の高藤の本妻から嫉妬をかい、心神耗弱状態にあるようにも見える。六条御息所の生霊に呪い殺される夕顔のようにならないようにと祈る。



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