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2023年05月21日17:23

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故人からの手紙〜坂本龍一「Love after love 第一炉香」

49日の法要の後で、まるで故人から不意に届いた手紙のように、輸入盤が発売になった坂本龍一「Love after love 第一炉香」。

2020年作の同名の中国映画のサウンドトラックは、去年中国で発売されたのだが、権利関係等が未調整のためか、日本版は未発売のまま。
タワーレコードやamazonで輸入盤が少量入荷となり、今回手に入れることができた。

坂本龍一の映画音楽は、時にやっつけ仕事というか、彼ならもっと出来るはずと思えるものもあるが、これはなかなかの力作、美しく、素晴らしい一枚。
「繊細にして流麗」と、書や絵画を形容する言葉が似合う。

私が彼の音楽に求めるもの、その全てがこの一枚に凝縮されているように思う。
それは、音であり、気配であり、香りであり、色彩でもあるもの。
それが「音楽」という「かたち」をとっているのは、
それらの全てを余すことなく表現するために、何かしらの形に入れて伝達されるものであるから。
「ち:血」が入った「かた:形」すなわち「形」によって、私たちは対象を捉え、認識することができる。
その「何かしら」が、たまたま彼の場合は音楽だったということなのだろう。

劇伴のサウンドトラックである以上、音楽は「主」たる映像に寄り添い、時に映像を際立たせ、時に鑑賞者の視線を誘導し、時に映像では語りきれないものを伝える。
音が映像を引き寄せ、映像が音を引き寄せる「音の引力」。

たとえば、生まれたての朝を祝福するかのように鳴き交わす鳥たちの歌、潮の満ち引き、カエルの鳴く声、川のせせらぎ。
まるで音に引き寄せ、吸い寄せられるかのように、ふと足をとめて、耳を澄ませて聴きたくなるような、それら自然現象が持つ「音の引力」に似たものを、この音楽に感じる。

自然界の環境に「音」が一体のものとしてあるように、映像にも「音楽」が一体のものとして、ある。
そして、それを聴く私もまた、この音と一体としてあるもの。

大きく深く深呼吸して新鮮な空気を取り込むように、身体の隅々にまで届けたい音。

花咲き乱れる季節に、唐突なまでの訃報に接し大きな衝撃を受けて以来、しばらくは彼の音楽を聴くことが全くできなかった。
そんな私に、再び彼の音楽と向き合うきっかけを与えてくれたのも、彼の音楽の持つ、何かを引き寄せる力、音の引力。

49日という「喪の仕事」の期間を経て、故人から不意に届いた手紙を、何度も読み返すように、聴き返したくなるようないとおしさ。
その音に親しむことで、彼が今なお、近いところにいるのを感じる。

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