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2021年10月17日09:41

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永遠の化学物質[読書日記852]

題名:永遠の化学物質 水のPFAS汚染
著者:ジョン・ミッチェル(Jon Mitchell)、小泉 昭夫(こいずみ・あきお)、島袋 夏子(しまぶくろ・なつこ)
訳者:阿部 小涼(あべ・こすず)
出版:岩波ブックレット
価格:620円+税(2020年8月 第1刷発行)
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マイミクさんが紹介されていた本です。

表紙の言葉を引用します。
“焦げつかないフライパン、撥水スプレー、食品包装紙、便利な生活用品
 にひそむ健康被害の罠
 何千年も分解されず、発がん性が疑われるPFAS(有機フッ素化合物)。
 米軍基地や工場から流出し、沖縄、東京、大阪はじめ日本の水を汚染し
 ている”
この「永遠の化学物質」の危険性を説き、製造者、責任当局、報道を怠ってきたメディアを告発する内容です。

目次は次の通りです。
 はじめに
 第1章 PFAS、その起源と用途
 第2章 暴かれた秘密、そして廃絶へ
 第3章 PFASは地球を汚す
 第4章 日本におけるPFOA/PFOSの汚染
 第5章 沖縄におけるPFAS汚染
 第6章 PFASがむしばむ健康――安全な水は得られるか
 第7章 日本は何を、どうなすべきか――PFASから身を守るために

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まず、冒頭から引用しましょう。
“ぺルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は、耐熱性、耐油性、耐水性に優れた、おおよそ5000種類の合成化学物質群である。
二十世紀半ば以来、世界中で数え切れない製品に用いられ、私たちの生活は安全で便利になった。(略)
だが、PFASの化学的安定性は危険性にもつながる。外部からの作用に強いこの合成化学物質は、自然界で分解するのに数千年を要するのだ。じっさい、そのあまりにも長い環境残留性から、アメリカでは専門家たちがPFASに「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」というニックネームを付けた。(2p)

この素材は米国のデュポンが1938年頃「テフロン」として、3Mが1953年頃「スコッチガード」として発売したことが始まりだそうです。
「テフロン加工の製品」も「スコッチガード」もわが家の中で使っていたことがあります。

印象に残った文章を引用します。

【第2章 暴かれた秘密、そして廃絶へ】から、米軍の泡消火剤がPFOS(ぺルフルオロオクタンスルホン酸)汚染の大きな原因であるという話。
“米軍の対応はもっと遅かった。数十年も前から泡消火剤の有害性を認識していたというのに、2015年になってやっと、PFOSを含有しない消火剤への代替に着手した。それでもなお、代替品はPFOA(ぺルフルオロオクタン酸)とその他の有害PFASを含有している。
2020年2月、日本政府も同じように自衛隊が保有する約40万リットルのPFOS泡消火剤を入れ替えると発表した。だが、米軍と同じように、その他PFASを含有する代替品を認可した”(19p)

【第3章 PFASは地球を汚す】から、米軍の横田基地が汚染のひどい場所のひとつという話。
“米軍は日本では、PFAS汚染に関する情報をまったく公表しない。だが筆者が米国情報自由法(FOIA)で入手した記録から、問題がはびこる様相は明らかである。
 日本本土で最も汚染のひどい場所のひとつが、在日米軍司令部のある東京の横田基地だ”(25p)

【第4章 日本におけるPFOA/PFOSの汚染】から、東京の多摩川水系で進んでいる汚染の実態。
“我々は2003年に、多摩川水系で表層水のPFOS汚染および世田谷区での水道汚染が生じていることを報告したが、それを受け、都は調査に乗り出した。(略)
これらの結果から、多摩地区に存在する三つの想定される汚染源の一部あるいは全てが、多摩川の表層水汚染と同時に同地の地下水汚染も引き起こしている可能性が示唆された。
他の研究も同様の結果を支持している”(41p)

【第5章 沖縄におけるPFAS汚染】から、沖縄の嘉手納基地も汚染源のひとつであるという話。
“沖縄の人たちが「永遠の化学物質」と呼ばれるものの存在を知ったのは、2016年1月18日のことだった。
その日、緊急会見を開いた沖縄県企業局は、本島中部にある北谷(ちゃたん)浄水場の取水源となっている河川や地下水から、PFOSと呼ばれる有害物質が高濃度で検出されたと発表したのだ。
北谷浄水場は七つの市町村に給水していて、影響は約45万人に及んでいた。しかも厄介だったのは、その汚染源が極東最大級の米空軍基地とされる「嘉手納基地にある可能性が高い」とみられていたことだ”(52p)
→この章では、PFOA,PFOS汚染が嘉手納基地内に残る泡消火剤が原因であることを突き止められたことを述べています。

【第6章 PFASがむしばむ健康――安全な水は得られるか】から、北海道での調査結果。
“北海道大学を拠点として岸玲子教授が主宰してきた「環境と子どもの健康に関する研究・北海道スタディ」は、アジア地域で環境汚染が子どもの健康に及ぼす影響調査を深く掘り下げている研究機関のひとつである。(略)
(北海道スタディが行なった)この研究でわかったことは定期的なレポートとして公表され、PFAS曝露が幅広く子どもに及ぼす害と関連づけた。
 ・PFASは出生時体重の減少に関連している
 ・PFOAは生後六ヵ月の女児の精神発達を阻害する
 ・PFOSは胎児の成長で重要な役割を果たす母体の脂肪酸レベルを低下させる
 ・PFOSとPFHxSに子宮内で曝露すると、子どもの免疫系を損傷し、乳児期の感染抵抗力を減少させる可能性がある”(67p)

【第7章 日本は何を、どうなすべきか――PFASから身を守るために】から、日本の現状。
“グローバルなPFASの拡がりとその健康リスクに関する認知とは、きわめて対照的なのが日本の状況である。
 沖縄を例外として、一般住民の多くは、フォーエバー・ケミカルについて耳にしたことがない。
 その無知の責任は、大部分が日本の責任当局とメディアにある。海外各地とは違い、国・地方当局のほとんどは環境や魚類・食品中に含まれるPFAS検査を実施しておらず、メディアは問題を知らせてこなかった”(79p)

すぐに読める手軽な本ですが、内容は非常に重く、またすぐには解決できない(先週までの私と同様に、危険であることを知らない人が多い)課題を突きつけられました。
最後に第7章の締めくくりの文章を引用します。
“沖縄が向き合っている(PFAS汚染の)テーマは、日本の主権を問うものである。
 県民の声を尊重し、真摯に向き合うことが必要だ。そしてそれは、いずれ同じような状況に遭遇する可能性がある日本全国の問題である。
 沖縄を孤立させてはならない。自分のこととして、この問題を考えてほしい”(85p)

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ジョン・ミッチェル(Jon Mitchell)
1974年生。報道ジャーナリスト。沖縄タイムス特約通信員。
明治学院大学国際平和研究所研究員。東京工業大学非常勤講師。
2015年日本外国特派員協会「報道の自由・報道功労賞」Freedom of Press Lifetime Achievement Award受賞。
沖縄タイムス、琉球新報、The Japan Times. 毎日新聞、朝日新聞、東京新聞、テレビ朝日、日本テレビ、TBSなどに寄稿、出演。
著書に『追跡・沖縄の枯れ葉剤 埋もれた戦争犯罪を掘り起こす』(高文研)、『追跡 日米地位協定と基地公害と呼ばれて』(岩波書店)。

小泉 昭夫(こいずみ・あきお)
1952年生。京都大学医学研究科名誉教授。京都保険会の社会健康医学福祉研究所長。専門は環境と疾病。78年東北大学医学部卒業。
Dow Chemical. カリフォルニア大学、秋田大学医学部教授をへて2000年京都大学医学研究科教授。18年退職し現職。
生体試料バンクの設立で06年度環境賞優秀賞、08年度日本衛生学会賞、糖尿病及びモヤモヤ病の遺伝子発見で17年度日本医師会医学賞。
難病支援で自身らが見出した疾患「小児四肢疼痛発作症」の創薬ベンチャーの科学顧問も務める。

島袋 夏子(しまぶくろ・なつこ)
1974年生。琉球朝日放送記者。早稲田大学総合研究機構次世代ジャーナリズム・メディア研究所招聘研究員。
2014年度『裂かれる海〜辺野古 動き出した基地建設〜』で第52回ギャラクシー賞テレビ部門大賞。
16年『枯れ葉剤を浴びた島2〜ドラム缶が語る終わらない戦争〜』で日本民間放送連盟賞テレビ報道番組最優秀賞。
17年度石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞公共奉仕部門奨励賞など。

阿部 小涼(あべ・こすず)
琉球大学人文社会学部国際法政学科教授。国際社会学。

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