極北、それも北極圏に近い荒野に住むジャコウウシは、現生のウシ科では最も極北に棲む種かもしれない。いやウシ科に限らず、脊椎動物では稀少な種だろう。
◎ユーラシアとアラスカで一時絶滅したが移入されて増える
現在は、原産種はカナダ北極圏とグリーンランドにしか生息しないが、その後、ノルウェー、シベリア、スウェーデンなどのユーラシア極北圏の保護区にも導入され、19世紀末には絶滅したと見られるアラスカでも移入種が保護により分布圏を広げている(地図=赤い部分は原産種の分布する所で、青い地域は移入地域)。かつて懸念された絶滅は、免れた。
前述のように、ジャコウウシはその毛(毛については後述)と肉を目当てに乱獲され、ユーラシアとアラスカではいったんは絶滅した。
アラスカの場合は、1935年にアメリカ魚類野生生物局が移入し、アラスカの北極圏の平野部や山岳地帯に生息地を広げている(写真=スワード半島で撮影)。
群居性で、夏は小規模の群れに分裂するが、冬季は集まって数十頭の群れを形成する。
◎敵に遭うと仔を真ん中に入れて防衛
ジャコウウシの天敵は、ホッキョクオオカミだが、襲われた時は、仔ウシを囲んで鋭いツノを外側に向ける形で円陣を組み、敵に対抗する(写真)。
追い詰められと、その巨体で突進し、ツノを使って相手に致命傷を与える。最速で時速60キロ、最大個体でオスが650キロにも達するというから、体当たりをオオカミなど食らったらひとたまりもあるまい。
最上部の写真でも見るように岩だらけ、長い冬季は氷雪に覆われる極北域で、ジャコウウシの食物があるのかと思われるが、地衣類、コケ、植物の根は食料になる。
地面が雪で覆われていても、蹄を使って雪の下を掘り起こして食べる。こんな貧弱な食物で生きられるのは、彼らがウシ科の反芻動物だからだろう。
◎二重の毛の内側の産毛は高級・高価
上記のような冬季にはマイナス50℃にもなる厳寒地に暮らすので、外毛の下の極細の産毛は保温性に富む。先住民イヌイットの言葉で「キヴィアック」と呼ばれ、そもそも生息数が少ないので、高価・希少で、高級品だ。
ちなみにジャコウウシのキヴィアックは、ペルー山岳部に棲むビクーニャの毛と並ぶ高級・高価な毛である(19年12月22日付日記:「世界で最も高価な『神の繊維』をもたらすビクーニャ、1度は着てみたい超高額ビクーニャの毛100%のコート」を参照)。
現在、ジャコウウシの個体数は、最も多いカナダでも10万頭弱と見られる。年間産子数は1回1頭だけなので、減ると回復が難しい。
◎ユーラシアでは3000年前に絶滅したが、復活
ジャコウウシが、マンモスやケブカサイのような絶滅を免れたのは、その生息域が極北圏に偏っていたからだろう。ここは、先史人の分布も過疎で、それだけ肉と毛を狙う標的からは免れた。
しかしそうでもなかったユーラシアでは、早くも3000年前くらいには絶滅した。狩猟民に狩られたからである。ここで、一部地域にジャコウウシが復活したのは心強い。
なお現在、日本の動物園にはジャコウウシの展示はない。生きたジャコウウシを観察できないのは残念である。
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