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2017年09月02日08:40

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バッタを倒しにアフリカへ[読書日記642]

題名:バッタを倒しにアフリカへ
著者:前野 ウルド 浩太郎(まえの・うるど・こうたろう)
出版:光文社新書
価格:920円+税(2017年7月 初版6刷)
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新聞の書評で紹介されていた本です。
著者は子供の頃に『ファーブル昆虫記』を読んで虫を好きになり、昆虫学者を目指しました。
目指したまではいいのですが、大人になってから著者は困難に直面します。
どんな困難か、「まえがき」から引用します。

“(『ファーブル昆虫記』に夢中になってから)時は流れ、数多くの昆虫の中でたまたま巡り合ったバッタの研究をはじめ、博士号を取得した。着実に昆虫学者への道を歩んでいたが、子供の頃には想定だにしなかった難問に直面した。
 大人は、飯を食うために社会で金を稼がなければならない。バッタを観察して誰がお金を恵んでくれようか。あのファーブルですら、教師をして金を稼いでいたのだ”(4p)

目次を紹介します。
 まえがき
 第1章 サハラに青春を賭ける
 第2章 アフリカに染まる
 第3章 旅立ちを前に
 第4章 裏切りの大干ばつ
 第5章 聖地でのあがき
 第6章 地雷の海を越えて
 第7章 彷徨える博士
 第8章 「神の罰」に挑む
 第9章 我、サハラに死せず
 あとがき

著者は昆虫学者の道を進んだ訳ですが、その道の険しさを次のように書いています。
“苦労の末に手にした博士号は、修羅の道への片道切符だった。
 博士になったからといって、自動的に給料はもらえない。新米博士たちを待ち受けるのは命懸けのイス取りゲームだ。イス、すなわち正規のポジションを獲得できると定年退職まで安定して給料をもらいながら研究を続けられる。
 だが、イスを獲得できるのはほんの一握りどころか、わずか一摘み(つまみ)の博士だけ。夢の裏側に潜んでいたのは熾烈な競争だった”(106p)

そして、二年間の研究費が出ている期間に学者として成果を上げるべく、背水の陣でモーリタニアまで行くのですが、ここで大問題が発生します。
“自然現象に進路を委ねる人生設計がいかに危険なことかを思い知らされた。バッタが大発生することで定評のあるモーリタニアだったが、建国以来最悪の大干ばつに見舞われ、バッタが忽然と姿を消してしまった。
 人生を賭けてわざわざアフリカまで来たのに、肝心のバッタがいないという地味な不幸が待っていた”(6p)

ここまで引用したように、様々な困難に直面する著者ですが、ユーモアを交えた筆致で暗い印象はありません。上に引用した“バッタがいないという【地味な】不幸が待っていた”のように、軽妙に書くことを意識したようです。

そんな軽妙な箇所をもう一つ紹介します。
【第1章 サハラに青春を賭ける】から。
“砂漠の日中はとにかく暑い。日陰に逃げてもドライヤー並みの熱風が襲ってくる。日本では35℃を超すと死者が出るところ、こちとら45℃を超えている。
秋田県民ならいつ死んでもおかしくない気温だ”(60p)
秋田出身の自分自身を茶化しているんですね。

著者が研究し、退治しようとしているサバクトビバッタの大軍の規模についての描写を引用します。
【第3章 旅立ちを前に】から。
“私が研究しているサバクトビバッタは、アフリカの半砂漠地帯に生息し、しばしば大発生して農業に甚大な被害を及ぼす。その被害は聖書やコーランにも記され、ひとたび発生すると、数百億匹が群れ、天地を覆いつくし、東京都くらいの広さの土地がすっぽりとバッタに覆い尽される。
 農作物のみならず緑という緑を食い尽くし、成虫は風に乗ると一日に100km以上移動するため、被害は一気に拡大する”(112p)

こうして、モーリタニアに行って三年後にやっと大発生したバッタの大群と対面できるのですが、その時の描写を引用します。
【第6章 地雷の海を越えて】から。
“大量のバッタが群れを成し、黒い雲のように不気味に蛇行しながら移動していた。その尾の先は地平線の彼方にまで到達している。想像を遥かに超えた異様な光景に唖然とする。すぐに驚きが一周して笑えてきた。
 「こんな巨大な群れを退治するとか、どうやったらいいのよ」こんなものに闘いを挑もうとしていたとは、私はなんと無謀なのか。あまりの果てしなさに茫然とする”(249p)

バッタ博士vsバッタの大群の結末は、本書をお読みください。

虫の好きな私には、とても面白い本でした。興味が無い方にもお薦めしたい本です。

《補足》
著者の研究の一部が、日本ナショナルジオグラフィックの『研究室』サイトに紹介されているので、興味のある方はご覧ください。
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20140114/379960/

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前野 ウルド 浩太郎(まえの・うるど・こうたろう)
昆虫学者(通称:バッタ博士)。
1980年秋田県生まれ。国立研究開発法人国際農林水産業研究センター研究員。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(農学)。
京都大学白眉センター特定助教を経て、現職。アフリカで大発生し、農作物を喰い荒らすサバクトビバッタの防除技術の開発に従事。モーリタニアでの研究活動が認められ、現地のミドルネーム「ウルド(○○の子孫の意)」を授かる。
著書に、第4回いける本大賞を受賞した『孤独なバッタが群れるとき――サバクトビバッタの相変異と大発生』(東海大学出版部)がある。

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