題名:偽りの保守・安倍晋三の正体
著者:岸井 成格、佐高 信(きしい・しげただ、さたか・まこと)
出版:講談社+α新書
価格:800円+税(2016年7月 第4刷発行)
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最近、支持率が急落している安倍政権を批判した一年前の対談です。
対談はニュース番組「NEWS23」のアンカーだった岸井成格氏と評論家:佐高信氏。
この本で知ったのですが、二人は大学の同期で、かつてはしょっちゅう喧嘩する間柄だったそうです。
【第1章 安倍政権のメディア支配】から引用します。
“佐高 それにしても、自分が今のように岸井の応援団になるとは思わなかった(笑)。
二十歳から大学のゼミの同期生なんだけど、しょっちゅう喧嘩をしていたからね。
岸井 政治認識や思想領域では、だいたい意見が合わなかったよな。
佐高 本気で怒鳴り合うようなことが何度もあった。だけど、今からするとあれは戦後民主主義の価値を最低限共有したうえでの対立という気がしてくる。
岸井と私が同じ陣営になるという事態は、そこまで保守政治というものが変質してしまった今を象徴している。”(21p)
目次を紹介します。
はじめに 佐高信
第1章 安倍政権のメディア支配
第2章 自民党と創価学会
第3章 保守の平和外交――園田直と保利茂、受け継がれざる精神
第4章 安全保障は「保守の知恵」が可能にする
第5章 田中角栄とアメリカ――戦後保守の対米政策
第6章 実利の保守・吉田茂と多角形の戦略
第7章 派閥と利権は絶対悪なのか?
第8章 「安倍独裁」の正体
おわりに 岸井成格
岸井氏は安倍政権を批判する特集をテレビで展開した際、安部政権を応援する文化人から新聞の全面広告で非難されています。
その感想を佐高氏は次のように述べています。
“佐高 岸井成格という人物がこれほど大物だったのかと私は驚いたんだが(笑)、
去年の11月14日の「産経新聞」と11月15日の「読売新聞」に、岸井個人を名指しで非難する全面意見広告が掲載された。
「安保法案廃案に向けてメディアは声を上げ続けるべきだ」と発言した岸井は政治的公平を定める放送法に反するというわけだ。
意見広告の主体は「放送法遵守を求める視聴者の会」なる団体で、渡辺昇一とかすぎやまこういちとか、例によって愛国者もどきのお粗末な翼賛文化人だった”(16p)
自民党の保守本流を取材してきた岸井氏は、今の自民党の中国・韓国に対する強気な姿勢に疑問を呈しています。
【第3章 保守の平和外交――園田直と保利茂、受け継がれざる精神】から2つ引用します。
1.歴史認識問題について:
“岸井 中国の反日という話に戻すと、これは後々の議論になるかもしれないけれども、自戒というか反省を込めて言うと、明治初期の『坂の上の雲』の時代の日本の勢い、それから1910年の韓国併合から、満州事変、
日中戦争、第二次世界大戦に至る時期の植民地支配と戦後処理――この二つの日本の対アジア進出ね。中国も韓国も、あるいは北朝鮮も、領土や賠償を含めて、二重の屈辱感というのが絶対に消えないんだよ。
それを日本人は全然わかっていない。彼らはこれが頭にくるんだ。歴史認識問題というのはそういうことだ。やられたほうは覚えている。”
佐高 何回謝れば気が済むんだとか、そういう話ではない。”(101p)
2.尖閣をめぐる日中の歴史認識について:
“佐高 中国は基本的に戦時賠償をとらなかった。
岸井 そう。その問題は大きいな。
佐高 これが今の日本の中国認識の中でスポッと抜けている。政治家もメディアも国民も。
逆にかつては経済界のほうに認識していた人がいて、新日鐵の稲山嘉寛や徳間書店の徳間康快などは「中国からは儲けるな」という考えだった。
稲山の手がけた宝山製鉄所なんかほとんど技術供与だよね。
岸井 無償でつくった。”(68p)
本書の核心は【第8章 「安倍独裁」の正体】に凝縮されています。
たくさん引用したいのですが、1点だけ引用します。
“安倍晋三の自己弁護癖と執念深さ
岸井 今の自民党の政治家は常軌を逸している。私は「政治的公平から逸脱したメディアに対しては、電波停止命令もあり得る」と言った高市早苗に対して辞任要求するつもりだ。
あれは異常すぎるほどに異常だよ。たしかに官邸が報道番組をすべてチェックしているとは聞いていたが、あそこまで無法な暴論が出てくるとはまったく驚きだ。”(160p)
最後に【おわりに】から、岸井氏の嘆きを引用します。
“「国境なき記者団」は、今年(2016年)の日本における「報道の自由度」を世界で第72位にまで低下させた。
ほぼ発展途上国の独裁国家なみの扱いである。国連の人権理事会の調査団も、私への攻撃に使われた放送法四条の「公平・公正な報道」は、本来は報道する側の自主的な倫理規範であることを承知のうえで、「国家権力の介入の口実に使われるようであれば、削除・廃棄すべきだ」と勧告するほどだった”(188p)
自民党の歴史の中で本流だと思っていた安倍政権が実は傍流(異端)であることは意外でした。
しかし、その思想と政治手法が危険なものであることは、改めて理解できました。
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岸井 成格(きしい・しげただ)
1944年、東京都に生まれる。慶應義塾大学法学部卒業。1967年に毎日新聞社に入社。熊本支局、政治部、ワシントン特派員を経て、論説委員、政治部長、編集局次長、論説委員長、特別編集委員、主筆を歴任する。
現在、毎日新聞特別編集委員。2013年から2016年まで、テレビニュース番組「NEWS23」(TBS系)でアンカーを務めた。
佐高 信(さたか・まこと)
1945年、山形県酒田市に生まれる。慶應義塾大学法学部卒業。高校教師、経済雑誌編集者を経て、現在は評論家。
「週刊金曜日」編集委員。著書多数、近著に『メディアの怪人徳間康快』(講談社+α新書)、『自民党と創価学会』(集英社新書)など。
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