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2017年04月22日08:46

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そして、メディアは日本を戦争に導いた[読書日記622]

題名:そして、メディアは日本を戦争に導いた
著者:半藤 一利(はんどう・かずとし)保阪 正康(ほさか・まさやす)
出版:文春文庫
価格:550円+税(2016年3月 第1刷)
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半藤一利さん、保阪正康さんによる対談です。
戦前のメディアを振り返り、現代との共通点を考える内容になっています。
2013年に出版され、気になっていた本書が文庫本になったので読みました。

裏表紙の惹句を引用します。
“安保と憲法9条、特定秘密保護法と検閲、ナショナリズムの過熱。
 近年の日本社会と戦前社会が破局へ向かった歩みの共通点は何か。
 新聞が軍部指示に傾いた経緯、世論の「なだれ」を起こしやすい国民性、
 石橋湛山・桐生悠々ら「反骨のジャーナリスト」たちの仕事を紹介し、
 昭和史研究の第一人者が徹底して語り合った警世の書”

目次を紹介します。
 はじめに いちばん大事な昭和史の教訓 半藤一利
 序 章 いまなぜジャーナリズム論か
 第一章 戦争報道と商業主義
 第二章 テロと暴力賛美の歪み、その内側
 第三章 国際社会との亀裂の広がり
 第四章 国家の宣伝要員という役割
 第五章 暴力とジャーナリズム
 終 章 現在への問いかけ
 おわりに いま、桐生悠々に学ぶべきこと 保阪正康

印象に残ったところを第一章〜第四章、終章から引用します。

【第一章 戦争報道と商業主義】から、「戦争に協力すると新聞は売れる」という話。
日露戦争の教訓「戦争に協力すると新聞は売れる」:
“半藤 戦争中の新聞の部数と伸び率の資料があるんですよ。(略)
 例えば、日露戦争が始める前は、断固帝政ロシアを撃つべしとバンバン書く新聞と、戦争なんてやるもんじゃない、国家百年の大計を考えれば自重してもう少し外交交渉を続けるべきだという新聞に分れていたんですね。
 ところが、戦争反対派の新聞は部数がどんどん落ちるんですよ。その一方で、賛成派の新聞は伸び始める”(44p)

【第二章 テロと暴力賛美の歪み、その内側】から、「なだれ現象は、歴史が示す日本民族の弱点」であるという半藤氏の指摘。
“半藤 歴史に学べば、私たち日本民族には付和雷同しやすいという弱点があるんですね。言いかえれば、集団催眠にかかりやすいということです。
 その結果として、なだれ現象を起こしやすいという特徴というか弱点もある”(93p)

【第三章 国際社会との亀裂の広がり】から、日中戦争当時、孫文の秘書をしていた日本人がいたという話。
“保阪 (日中戦争の)当時、本当に中国の人と付き合いがあって、中国の事情に通じていた人たちは、みんな孫文の周辺にいて彼に協力していました。(略)
 宮崎滔天とか山田純三郎とか言った人たちは軍から遠ざけられる。例えば、山田純三郎は孫文の秘書をしていた人でした。孫文の死のときの枕元にもいた人物です。
 満州事変のとき、日本はこんなことをやっちゃダメだ、中国はそんなに甘くないという文章を書いた。ところが、こうした苦言を呈する人間はだんだん発表の場を失っていくんですよ”(122p)

【第四章 国家の宣伝要員という役割】から、終戦の情報は新聞社には前日に伝えられていたという話。
“半藤 新聞には、終戦の発表前日である一四日の午後四時に、「戦争は終わる」と伝えられていたんですよ。
 ただ、朝刊は出さないでくれ、一二時の放送後に新聞を出してくれと言われていた。それで、夕方に朝刊が出たんですね。ですから、新聞社は終戦の記事を、満を持して書いたわけですよ。いけ、しゃあしゃあとね。
 歴史的に見ると、ジャーナリズムとは所詮そういうものなんです。常に時勢の後を追いかける”(153p)

【終 章 現在への問いかけ】から、昭和一桁と現在の共通点について。
“半藤 いまや安倍政権が秋につくろうとしている「特定秘密保護法」(2013年12月に成立、公布。14年12月に施行)なるものがあります。これが成立すると、国の秘密を暴露したり、報道したりすると厳罰に処せられる。
 そもそも国や政権が何のために情報を隠そうとするのかといえば、その大半は、私たちの知る権利や生命財産を危うくするものばかりなんですよ。
 昭和史の事実がそれを証明しています。報道はそんなことをさせないために頑張らなければいけないですよ。この法律ができると頑張れなくなってしまう”(201p)

最後に【おわりに いま、桐生悠々に学ぶべきこと】からも引用します。
“保阪 この間(昭和一〇年代)、ジャーナリストは国家の宣伝要員であった。ジャーナリストなどと名乗るのはおこがましく、国家の戦争政策を進める重要な情報マンだったのである。
 このことを私たちは正確に押さえておかなければならないと思う”(219p)

半藤さんは今年(2017年)87歳、保阪さんは78歳になられますが、老齢のお二人が日本の将来を憂いている理由がよく分かりました。

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半藤 一利(はんどう・かずとし)
1930年、東京・向島生まれ。
東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。松本清張、司馬遼太郎らの担当編集者をつとめる。
「週刊文春」「文藝春秋」編集長、取締役などをへて作家。
「歴史探偵」を名乗り、おもに近現代史に関する著作を発表。
著書は『日本のいちばん長い日』、『漱石先生ぞな、もし』(正続、新田次郎文学賞)、『ノモンハンの夏』(山本七平賞)、『幕末史』など多数。
『昭和史 1926-1945』『昭和史 戦後篇 1945-1989』で毎日出版文化賞特別賞、2015年菊池寛賞受賞。

保阪 正康(ほさか・まさやす)
1939年、札幌市生まれ。同志社大学文学部社会学科卒業。
編集者時代の72年『死なう団事件』で作家デビューして以降、個人誌「昭和史講座」を主宰して数多くの歴史の証人を取材、昭和史研究の第一人者として2004年、菊池寛賞を受賞した。
主な著作に、『東条英機と天皇の時代』『秩父宮』『昭和陸軍の研究』『瀬島龍三』『昭和史 七つの謎』『昭和史 忘れ得ぬ証言者たち』『あの戦争は何だったのか』『昭和天皇』『東京裁判の教訓』などがある。
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